闘牛士は命がけ ( 平成13年10月25日)

 ラス・ロサスの秋祭りは、今年も9月下旬から約3週間にわたって賑やかに行われました。
 
秋祭りのメーン・イべントは、何といってもエンシエロ(牛追い)と闘牛です。何しろこの牛追いの為に、9月に入って間もなく、市役所から街はずれの闘牛場までの約1Kにわたり、商店街は鉄柵で囲われ、大きな闘牛場が特設されるのです。
 
鉄柵や闘牛場が出来上がるまでには、約一週間かかるのですが、この間、夕方学校から帰って街を一回りしてその進捗状況を見ますでしょう、そうしますと商店街が鉄柵で囲われてしまうんですから、店や市役所への出入りが思うように出来ませんよね、それでも文句を言ったりする人がいないんですねー。ラス・ロサスの人たちの秋祭りにかける思いが伝わってきます。

          
            
            
「午前中の牛追い。市役所前から街は      「見事に決まった、両膝をついてカポー
 
       ずれの闘牛場へ牡牛を6頭追い込む」      テをかざすベロニカの大技」

 
光と影のスポーツ闘牛の真髄は、マタドール(闘牛士)に向かって突進する半トンもある牡牛と、極限まで牡牛の角に近づき、微動だにしないでムレタをかざす勇敢な闘牛士との命をかけた戦いにあります。
 
通常「サリーダ・デ・トロス(牡牛の出)」の場面は、闘牛士が立って突進してくる牡牛にカポーテをかざすのですが、ラス・ロサスの闘牛第三日目には、闘牛士が両膝をついて牡牛に立ち向かうベロニカの大技を仕掛けたのです。
 
私は、べンタス闘牛場で何回か見たこのベロニカの大技の場面で、前から疑問に思い心配していたことがあるのです。マタドールが両膝をついてしまうと、急な場面でとっさの動きが出来ないわけでしょう。ベロニカの大技は両膝をついたまま、右か左にカポーテをかざすのですが、突進してくる牡牛が、途中で気が変わって、マタドールのかざすカポーテではなく、マタドール自身に襲いかかってきたら一体どうなるのか・・と言う疑問なのです。
  何しろ牛は、人間のように色が識別出来るわけではないと言われているのです。ですから、牡牛は赤・黄色の色にではなく、単にその色の濃淡、モノトーンと、動く物に対して本能的に反応しているだけなのです。

 マタドールに襲いかかる牡牛

ラス・ロサスの闘牛第三日目、それは、あっと言う間の出来事でした。
 
アリーナへ出て興奮しきっていた牡牛は、闘牛士のかざすカポーテではなく、私が心配していたように、闘牛士に向かって突進してきたのです。アリーナへ出てきた牡牛とマタドール迄の距離は4〜50メートル、この距離を半トンもある牡牛が走り抜ける時間は、ほんの数秒です。しかも、牡牛はまだ力を十分にためていますから、この場面でのスピードは大変なものです。闘牛士は、自分に向かって突進してきた牡牛に対して、体制を立て直す時間的余裕は無かったはずです。
 
両膝をつき、カポーテを右側にかざしたそのカポーテではなく、まっすぐ闘牛士に襲いかかった牡牛は、そのまま闘牛士を踏みつけ、走り抜けてしまいました。
 
「ああ・・神よ!」私はカソリック教徒ではないけれど、周りのスペインの人たちに合わせて思わず神に祈りをささげていました。
 
倒れたままの闘牛士、しかし、牡牛はまた向き直って本能的に襲いかかってきます。
 
もう、絶望的な光景でしたが、次の瞬間、二頭目の牡牛と相対するチームの闘牛士とバンデリ・ジェーロがアリーナへ飛び出し、猛り狂った牡牛を引き寄せてくれました。
 
数分経ったでしょうか、フラフラと立ち上がった血だらけの闘牛士は、カポーテを持ち直して、再び牡牛に立ち向かいました。一度、二度・・見事な技でカポーテをかざし、牡牛と相対し、観客の「オーレ」の大声援を受けましたが、いかんせん足元がふらついています。このままでは、再び牡牛の角にかかり放り出されてしまうでしょう。
 
私が今まで見てきたベンタス闘牛場やマハダ・オンダの闘牛では、闘牛士が牡牛の角傷を受けても、闘牛士の交代はありませんでしたが、この日のラス・ロサスでは、次のチームの闘牛士が交代し、間もなく救急車が駆けつけ、病院へ運ばれました。
 
助かってくれると良いがなー。
 
光と影のスポーツ「闘牛」は、生と死が隣り合わせの厳しい戦いでもあるのです。