サン・ビセンテ村の伝統的なワイン造り

フェリペU世大学・翻訳学部
PROFESOR   加 瀬 

 スペインのワイン造りは今ではすっかり機械化され、圧搾から浄化・発酵まで、全て近代化された工場でオートメーション生産されておりますが、サン・ビセンテ村のワイン造りは、今でも収穫された葡萄を長靴をはいて踏み潰し、巨大なかめで発酵させるという伝統的なワイン造りのやり方を保っています。

             

                          
サン・ビセンテ村の葡萄畑。照りつける太陽と冷
                 涼な気候、石灰質や粘土
質を多く含んだ土壌が良
                 い葡萄を育て、スペイン・ワインとなる。


 葡萄の収穫から破砕まで
 よいワインは、よい葡萄造りから始まります。乾燥した冷涼な気候と石灰質の良い土壌、そして照りつける太陽が糖度の高い良い葡萄を育てます。
 
スペイン・ワインの歴史は、紀元前100年前後、ローマ共和国がイベリア半島を支配していた頃からといいますから、2、000年以上の歴史があるわけで、その頃より、この伝統的なワイン造りの手法が伝えられているのです。

         
         
              
サン・ビセンテ村で収穫される糖度の高いぶどう(写真左)と、摘み取られた
         ぶどう(写真右)ビノ・ティント
(赤ワイン) となる。ぶどうの値段は1Kg50
         センチモ
(約65円)。梗は全て除かれる。



 収穫された葡萄は、大きな樽一杯に詰められて運ばれて来ます。
 
サン・ビセンテ村で収穫された葡萄は驚くほど糖度が高いんですねー。運び込まれたばかりのとれたての葡萄を一房失敬して食べてみたんですけれども、イヤーもう、甘い、甘い。葡萄って、こんなに甘くて美味しかったかなー・・もうだいぶ昔になりますがね、巨峰と言う種類の葡萄が日本で出回り始めた頃、高級感があって、あれを食べるとすごくゴージャスな感じを私は持ったんですけれども、あんな幸せな感じですよ。
 この運び込まれた葡萄を、分銅のついた昔の秤で二人で担ぎ上げ、重量を計るのです。

               

                          
懐かしい分銅のついた秤で重量を計る。
                 樽一杯で60〜70
K

 目方を計った葡萄は、写真の場所から地下室への蓋が開けられ、地下室へ落とされます。

 
圧搾・浄化は長靴で
 さあ、次の工程が圧搾、つまり長靴をはいて軽く葡萄を踏み潰し「ラグリマ()」という葡萄の最初の液体を搾り出すことです。肩を組み、歌をうたいながら足踏みをします。「Sr.加瀬、まあ一杯やろうや」と、かめの中のワインを飲みながらの作業となりました。こうなると、スペインの人たちは、仕事を楽しむことの達人です。「今、この仕事を仕上げる」為に「頑張る」のではなく、仕事そのものを楽しんでしまうんですね。この辺が、私たちと違うんだなー。
 
ここでも妻と共に出来たての「葡萄の涙」をコップに一杯失敬して飲んでみたんですねー・・もう、文句のない糖度の高いグレープ・ジュースなんですよ。

                

                        
地下室で肩を組み、歌を歌いながら一杯
                機嫌で「ラグリマ
(葡萄の涙)」を搾り出す
                楽しい作業。マラソンをしているような
                感じです。


 長靴で踏み潰された搾り汁は、手作業でていねいに固形物が取り除かれ、除梗されてかめの中に入れられます。赤ワインにする為には、果汁に果皮を加えます。こうすることによって、ビノ・ティントのあのオレンジがかった上品なビオレタ色の、科学を超えた芸術品が出来上がるのです。

 発酵とソンブレロ
 
発酵は、葡萄果汁に含まれる糖分をアルコールに変化させるプロセスです。サン・ビセンテ村で収穫されたこの日の葡萄は、糖分が高すぎる為、水を加えることになりました。サン・ビセンテ村の水汲みは、近くの水汲み場に湧き出している泉の水を容器に入れて運びます。この仕事は、カルロス家の娘たちがウンウンいいながらよく手伝います。親が子に手伝いを言い付け、子供がそれに従う、当たり前のことに感心させられる光景に「健全なる子育て・躾」の場面を見る思いがします。

        
           
         
 サン・ビセンテ村の裏山から湧き出る泉。   長靴で踏みつけ、搾り出された葡萄の果
       村の人たちは、容器を持って水汲みに来る。   汁は、左右の大きな瓶で発酵する。


 搾りとられた果汁は、大きな瓶に入れられて発酵・熟成するのですが、葡萄の果汁が発酵することによって発生する二酸化炭素は、果皮を押し上げ、ソンブレロ(帽子)と呼ばれる層が出来上がります。
 
ビノ・ティントの赤い色をきれいに出すためには、ソンブレロの果皮をかき混ぜて毎日面倒を見るなど、わが子をいとおしむように可愛がってあげるのです。
 12月の初旬には、若いワインが出来上がります。楽しみだなー・・。

   
 
 さすが、警視庁の警部殿              こぼれ話

 
先般、妻沼東中学校時代の教え子、福島君夫妻がマドリッドへ来てくれました。

 
警視庁勤続30年のリフレッシュ休暇の貴重な休みを使って、35年前の恩師を訪ねてくれたのです。

 
中学校時代の思い出を懐かしく語りながら、マドリッド近郊や市内を案内しました。そして帰国前日、マドリッドの旧市街、プエルタ・デル・ソルを歩いてプラサ・マジョールへ向かう路上で「福島君、このあたり一帯は、スリ、強盗等の被害が一番多いところだから、充分気をつけるようにな」と、言い終らないうちに、3〜4人の窃盗団に囲まれ、福島君のバッグのチャックが外されてしまっているのです。

 「福島君、
窃盗団だ」と、私が言うより早く、福島君の電光石火の早業、強力な空手チョップが窃盗団の手を襲いました。

 
あっと言う間の福島君の早業にひるんだか、マドリッドの窃盗団は、ほうほうの体で逃げてしまいました。

 
さすが、警視庁の警部殿・・天晴れでした。

                                                                                     アディオス