EU統合後のスペイン
                              

                              フェリペU世大学・翻訳学部
                              PROFESOR  加瀬  忠

 私がいつも食料等を買い出しに行くアランフェスのメルカド(市場)で、このところ大きな変化が目につきます。
 今までは肉屋さん、魚屋さんだったメルカドの一画が改装され、パソ・コンのコーナーに生まれ変わっているのです。メルカドはご存知のように、ずっと昔から、野菜や果物、肉・魚類等の、主として生鮮食料品等を扱う、いわば「庶民の台所」的役割を担ってきた場所です。そのメルカドにパソ・コンのコーナーが誕生し、最近はいつ行っても満員で、子供から大人までがパソ・コンの画面とにらめっこをしているのです。台所とパソ・コンが共存し、時代の変化にいち早く対応しようとしているスペイン社会の変化を感じます。

 
また、ここ1〜2年スペインのIT(情報技術)の普及ぶりは大変なもので、私が、この夏休みに日本へ一時帰国した折に、私の娘が、スペインの知り合いとチャットで話をしているところへ、たまたまその友人のところへ遊びに来ていた8歳になる従妹のへススちゃんが、チャットへ入ってきて私の娘と話をしているんですね。いやー、私は感心したんですが、8歳の子がですね、チャットで娘たちの会話の中へ入りこめるパソ・コンの技術をもうそこまでマスターし、使いこなしていると言う生活環境に対してです。へススちゃんの例は、スペイン社会では特殊な例外ではなく、ごくありふれた普通の子の例なんですね。

 
私は日本の中学校に長く勤務し、校長として学校を経営してきましたが、この面で日本の小・中学校のIT(情報技術)関連教育は、EU域内の情報技術関連教育よりも大きく遅れています。21世紀をリードする先端産業は、引き続き情報通信関連産業と自動車産業、バイオ・テクノロジー等であると私は考えます。これからの時代は、インター・ネットで英語の情報を収集し、その情報を取捨選択してさらに自らの情報を加味し、発信して、その情報の普遍性・価値を競う時代ですのでね。EU域内の多くの国々では、もう6〜7歳くらいの子供の頃からこの教育に取り組んでいますから、覚えるのも早いんですよ。
 
世界的な規模で急速に進展しているグローバル化への対応、来るべくブロードバンド時代に備えて、学校での授業、買物、音楽等々、コンピューターにADSLを接続する等の技術は、スペイン社会ではもう常識の時代となっていますからね。

  EU・拡大するヨーロッパ

 フランス、ドイツ、スペイン等EU12カ国は、2002年1月1日、統一通貨「ユーロ」の導入をもって統合を完結しました。通貨統合だけに参加していないイギリス等3カ国を加えて、EU(ヨーロッパ連合)は15カ国体制となったわけですが、さらに周辺国のポーランド、ハンガリー、ルーマニア、バルト海沿岸の旧ソビエト3国のエストニア、ラトビア、リトアニア等を加えた中・東欧10カ国のEU入りがほぼ固まり、EUは2004年以降、何と25カ国体制となるのです。東西が一体化したEUとなるのですねー。大欧州時代の幕開けは、とてつもなく大きな歴史の流れを感じさせます。

 
東・西ヨーロッパの国境は、かつて東西冷戦の最前線でありました。それぞれはNATO(北大西洋条約機構)軍とワルシャワ条約機構軍としてことごとく対立し、一触即発の危機を何度も経験してきました。その北大西洋条約機構軍とワルシャワ条約機構軍のジョイントなのですね。私は学校で、長い間歴史を教えてきていますが、かつて戦争以外の民主的な話し合いの方法で、自国の主権の一部を委譲した例があったでしょうか・・。「ノー」、私の知る限りにおいて、過去の歴史では例がありません。静かな話し合いと民主的な手法による「自国の主権の一部委譲」は、欧州だからこそ実現出来た「壮大なる歴史的な実験」であると私は思います。

 
振り返って、EU統合の理念をもう一度考えてみますと、統合のバック・ボーンとなったもの、共通項はやはり「ヨーロッパの国々が、宗教(キリスト教)の文化・伝統を共有していたこと」に帰結すると思えます。その上に、(1)戦争のない社会と永久平和の実現、(2)個人の選択の自由を柱とした民主主義による国づくり、(3)基本的人権の尊重の三点にまとめることが出来ます。(1)の実現のためには、EUの拡大がコンセプトでありますので、加盟国が拡大すればEUとしての共通の意思決定や政策の遂行が難しくなることは自明の理ではありますが、ハードルは高くても、大欧州での「不戦共同体」の構築に向かって進むことは十分に予想されます。
 
西暦2004年には、人口5億人以上の巨大市場が大欧州に実現します。その時世界の経済は、米・日・EUの三極に収斂されると言うシナリオが私の持論です。