人口370人のパトーネス村


  フェリペU世大学・翻訳学部
 
PROFESOR    加瀬   忠

 
マドリッドの北東60キロの山の中に、浮世を離れて、ひっそりと静かに佇むパトーネス村がある。
 
村の総人口は370人、小中学校や郵便局、病院等の公共的な建物やスーパー・マーケット、商店等が何もないこの村を訪れた時に私が最初に思い浮かべたのは、日本の「平家の落人部落」でした。
 バルもガソリン・スタンドも
何もないM−102をまっすぐに走ると、パトーネス・アバホ村(下のパトーネス村)へ到着します。めざすパトーネスの村はここではありません。パトーネス・アリバ(上のパトーネス) の標識に従ってM−102を左折します。車がやっと1台通れるくらいの、葛折りの急な細い坂道をくねくねとしばらく進むと、突然山の斜面にひっそりと佇む「上のパトーネス村」入口に到着します。
 人が生活するには、余りにも不便なこのような山の上に、どうして村が出来たのだろうか。
 村の人たちにいろいろと聞いてみたのですが、現在パトーネス村に住んでいる人たちの多くは、画家や作家、リタイアして「晴耕雨読」の生活をする人たちだけなのだそうです。

 人が生活をするその場と空間は、生活圏に学校、病院、商店といったようなインフラが整備されていることが選択の基準になると思うのですが、社会生活の基盤となる基礎構造が何も整備されていない山の上に村が出来てしまうのですから、パトーネス村の人々の生活観は、私の理解をはるかに超えたところにあるようです。

             

 
           パトーネス村の入り口。村全体が石を割って積み上げた建物で統一
             されている。右の建物は、観光案内所及び村の歴史展示室。

  パトーネス村の家々は、黒いピサーラという粘板岩を割った石を積み上げて出来ています。村の道も、同じピサーラで敷き詰められています。
 パトーネス村の目の前には、大きなピサーラの岩山があります。ここはロソジャ川とハラマ川が合流した地点にあり、石灰岩でできた山と粘板岩でできた山の谷間になっているのです。
最初にこの地に人々が定住したのは、旧石器時代後期ですが、16世紀ごろからは、牧畜をするのに便利だということで、ウセダの町から羊飼いたちが移り、集落を作って住み着いたようです。
 1、767年にパトーネスの長は、国王に村としての独立を申し出て認められ、今日に至っているのです。

 ピサーラ
 ピサーラ(粘板岩)は、泥岩が圧密作用によって、スレートへきかいをもったもので、変成の進んだ堆積岩の一種「変成岩」です。日本では、古くから良質な粘板岩をスレート瓦や塀などの建築材、硯などの材料として用いています。

                         
 
              中世で時間が止っている迷路のような村の
                大通り。

          
    
 
         私たちが訪れた時に、村で一軒だけ開いていたバル(左)と
           レストランテ「La Goleta(右)」。

 村のレストランテで昼食

 レストランテ「La Goleta」での昼食は美味でした。
 私はソパ・デ・アホ(にんにくスープ)とコルデロ・アサド(子羊の炭火焼)を注文しました。妻はカルネ・デ・テルネラ(牛のステーキ)とソパ・デ・カステジャーナ、このステーキがまた特大の大きさで、厚さ2センチ・・いや3センチくらいあったかな、皿からはみ出すほどの大きさで、食べきれないほどでした。 セグンド・プラトをいただきながら、パンをちぎってチリン・ドロンをつけながら食べるバラ(フランス・パン)の味はまた格別でした。

 
ナポレオンの侵略から免れた村
 パトーネス村は、1808年にナポレオンがスペインを侵略した折に、村が余りにも山間に位置していた為「ナポレオンの侵略軍の目を免れた村」として知られています。
 村には、工場や商店等、生産と流通に関係のある建物は何もなく、あるのはただ石を割って積み上げただけの古い家々とバル、数軒のアンティグアなレストランテ、小さな「El TIEMPO PERDIDO(失われた時)」という名のホテルだけです。思わず中世で時間が止ってしまったような錯覚を起こさせる村です。

             

 
           村のメイン・ストリート。バル、レストランテはこの通り
             に集まっている
が、石畳の道とそこに建っている廃屋のよ
             うな家々が、カスティージャ王
国時代からの歴史を偲ばせ
             る。

            

           パトーネス村から見た雪化粧の山々。積み上げる石は、こ
            の山から切り出される。

 パトーネス村への交通

 マドリッドから国道1号線(N―1)を北へ約45K、Venturadaの手前でN―320に乗り換え、320号線をさらに約8K走ってTorrelagunaの街へ到着。ここでM―102へ。

 何もない道をそのまま走ると間もなくパトーネス・アバホ(下パトーネス)へ到着しますが、めざすパトーネスの村はここではありません。パトーネス・アリバ(上パトーネス)
の標識に従ってM−102を左折します。カスティ―ジャ王国の時代から悠久の歴史を経て続く急な坂道をくねくねと進むと、突然山の斜面にひっそりと佇むパトーネス村に到着します。

 Torrelagunaの街入り口付近の交差点をそのまま道なりに進んでしまいますと、パトーネスを通りこしてしまいますから、Mー102の道路標識をよく見て下さい。