生活習慣と児童・生徒の「 運動能力・学力」
フェリペU世大学・翻訳学部
PROFESOR 加 瀬 忠
朝からあくびを繰り返し、一時間の授業に集中できない子どもたちの多くが、家庭での生活習慣に問題を抱え、朝食を食べないで登校している実態が報じられています。また、文部科学省が実施した学力テスト結果によりますと、学校に行く前に「朝食を食べている子の方が、食べない子よりも、全教科・学年で得点が高かった」という調査結果も報じられています(平成17年4月23日付 日本経済新聞)。
このことについて、資料は少し古くなるのですが、私自身が日本の中学校で体育主任をしていた頃に取り組んだ「運動能力・学力と生活習慣」の分析結果が、標記のテーマと重なる部分がありますので、当時、埼玉県妻沼町の教育研究会で発表した研究内容を、そのまま一部引用し、掲載します。
私は、東京オリンピックの開催された昭和39年に、妻沼東中学校へ社会科教師として赴任し、以来、管理職になるまでの21年間を妻沼東・西中学校で過しました。私の専攻は社会科なのですが、なぜか「若い」と言う事と、「箱根駅伝チームのキャプテン」であったという理由で、校務分掌は「体育主任」、担当教科は「体育と社会」で教員生活をスタートしました。昔のこととは言え、免許外の教科で「主任」と「教科」を担当したのですから、危なっかしいことをしたものです。 今でも一時帰国をして妻沼の町へ繰り出しますと、当時の教え子たちの多くが、私の専攻を「体育」だと思っていますから、逆に「加瀬先生は、社会も教えるのですか」と、質問されてしまいます。
妻沼西中学校での取り組み
− 中学生男子で高鉄棒の懸垂が一回も出来ない生徒 −
さて、これからの話は、妻沼西中学校で「体育主任」をし、「体育の授業」を担当していた頃の取り組みですから、もう30年近くも前のことになります。今でも行われていると思うのですが、中学校の生徒は、春先の一日を使って「スポーツ・テスト」を行います。当時は、50メートル走や1500メートル走、幅跳び、懸垂、ボール投げなどを行っていましたが、私が問題意識を持ったのは、男子の高鉄棒を使っての懸垂でした。中学生になって、高鉄棒での懸垂が0回、つまり、鉄棒にぶら下がったまま何も出来ないで、肥満気味の生徒を多数目にした時でした。スポーツ・テスト終了後に、いくつかの項目について追跡調査をしてみたのです。
まず、食生活についてです。1 登校前に朝食を食べているか。2 帰宅後、夕食までに何を食べているかの調査では、懸垂0回群の生徒たちは、登校前に朝食を食べていない子が圧倒的に多く、帰宅後に「おやつ」として夕食前に食べているものでは、ケーキ類、甘い菓子類、スナック菓子類等が多く、同時に甘い清涼飲料水を好んで飲んでいることがわかりました。
次に、「なぜ登校前に朝食を食べないのか」との問いについては、「前日夜更かしをして、朝起きられないから」、と答えた子が多く、中学生になっても、朝活動前にエネルギーを補給して一日の生活に備えるという、基本的な生活習慣さえも身についていない子が多いことがわかり、考えさせられました。
高鉄棒での懸垂は、ぶら下がった静止状態から20回出来て満点なのでして、中学生の男の子が、鉄棒にぶら下がったまま「何も出来ない」状態ということは、当時想定していませんでしたから、0回の生徒が多数いる現実の姿には、劣等教師の私の目にもかなりネガティブなインパクトだったことを、今でもはっきりと覚えています。
一体、ぶら下がったまま何も出来ない状態とは、どのような心理状態なのか、放課後に私自身実験してみました。腰のまわりに10キロの鉄アレイを2個しばりつけて高鉄棒に飛びついてみたのです。そして懸垂を試みたのですが、本当に上がらないのです。私の体重は、63キロ前後、これに20キロの鉄アレイをしばりつけているのですから、83キロになっています。自らの意思で収縮する随意筋(横紋筋)が20キロ増加したのでしたら、相当筋力を発揮するのですが、全く収縮しない脂肪が20キロぶら下がったのでは、力を発揮できません。ぶら下がったまま何も出来ないで、大勢の仲間に見られているというのは、あれは本人にとっても屈辱的なことだと思います。
懸垂力・筋力はトレーニングで向上する
スポーツ・テストの結果を分析し、懸垂0回グループの懸垂力・筋力を鍛えるために、雲梯とはん登棒を妻沼西中学校校庭に取り付けた「サーキット・コース」を造り、放課後の部活動前に「業後体育」として取り組む時間を特設しました。0回群は、各学年で50人近くいたのですが、少しずつ、しかも確実にトレーニング効果が現れ、子どもたちの体力が向上したことを、なつかしく思い出しています。
基本的な生活習慣の大切さ
それでは、私の取り組んだ「懸垂0回グループ」の学力はどうだったのでしょうか。その後、中間テストや学期末テストでの結果を考察しますと、残念ながら、0回グループからは私が出題した社会科のテストで「得点の高い子」は出ませんでしたし、その後もこの傾向はしばらく続いていましたから、やはり家庭での生活習慣と学力・運動能力は相関関係があるのだと、その時強く感じました。また、日本の中学校から在外の教育施設・マドリッド日本人学校、そしてスペインの国立フェリペU世大学へ移ってからも、このことは、相変わらず私の目からは同じように見えるのです。
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