年金20万円でのスペイン生活
フェリペU世大学・翻訳学部
PROFESOR 加 瀬 忠
私は、太平洋戦争が勃発した昭和16年に生まれました。
昭和39年に中学校の社会科教員として、教員生活のスタートを切り、43年になります。
この間、同期の中学校教員の妻と共に部活動指導、生徒指導、進路指導等に取り組みながら、多くの中学生と共に過して参りました。
中学校教員での共働き夫婦ですから、生徒指導・教科指導等では身体を張って指導しなければならないような場面もあったのですが、将来の年金生活を夢見て勤務を頑張ってきました。私たちと同世代の皆さんは良くおわかりのことと思いますが、私たちが40代の後半だった、そう、昭和60年代の頃は、日本経済も右肩上がりで元気がありました。
その頃、私の試算では、私が日本の中学校長を定年退職することとなる、西暦2002年前後には、その退職金と約30万円の年金そして退職金を定期預金にした金利で、十分に暮らして行けるはずだったのです。私はそう信じて疑わなかったですからね。ところが現実とは余りにも距離がありすぎました。日本経済の減速による景気の後退、老後の為にとファンドの一部をデポジットしておいた生命保険会社の突然の倒産、年金の減額、ゼロ金利と、先行き全く不透明な時代になってしまったのです。

マドリッド日本人学校付近の国道N−6号線。中央の2車線は、朝、夕で進行方向が逆になる。
求められる発想の転換
私は今、年に3回はスペインと日本の間を往復しています。
スペインと日本で生活をしていて感ずることは、スペインでの「生活のしやすさ」ですね。なぜスペインの方が「生活しやすい」のでしょうか。理由はいくつか考えられますが、私は、次の三つを上げることが出来ます。
1 おおらかな国民性とオーラ・アミーゴの明るいラテン人気質。いらぬことで他者を干渉したりしない成熟した大人の社会が心地良いこと。
2 物価の安さ。生活をして行く上での必要最小限の物価は、日本の二分の一、ものによっては三分の一くらいであること。
3 天候の良さ。ラ・マンチャの大地は、年間300日がからりとした晴天です。
以上の3点で、特に2番目の物価の安さは、年金20万円でのスペイン暮らしを考えている私たちの世代にとっては、最大の関心事であるわけです。
今の時代に、年金20万円で暮らそうとしても、日本ではとても楽な暮らしなど出来ないですね。それなら、一層のこと考え方を変えてスペインで暮らしてみてはいかがですか、と言うことが私の提案なのです。発想の転換です。住みなれた日本を離れることは、精神的にも、物理的にもかなりの抵抗感はあると思うのですが、EUが統合されたように、今や世界はボーダレスの時代、スペインに住むのもいいものですよ。

スペインとポルトガルの国境付近。手前がスペイン、向こう側がポルトガル。国境に物理的な障害物は何も無い。
スペイン生活の条件
それでは、具体的に60歳で定年退職し、退職金のファンドと月々の年金を元手に、奥様と二人、スペインで暮らす事をテーマにその条件を考えてみたいと思います。
1 スペインで「何がしたいのか」の目的意識がしっかりしていること。
これは非常に大切な事です。単にスペインあるいはヨーロッパへのあこがれだけで海外生活を選択することはどうかと思います。長続きしません。スペインで「語学を学習する」「フラメンコ・セビジャーナスに取り組む」「ギターを学ぶ」等の目的意識がしっかりしていることが大事です。
2 心身共に健康であること。
私の提唱する人生の「幸せの条件」その1は、心身共に健康であることです。
これは、スペイン暮らしの場合にも言えることです。先ず、行動体力の問題があります。スペインと日本を往復する生活と言うことになりますと、相当行動体力が必要です。マドリッドから東京までの飛行時間は約15時間です。アムステルダムかパリ、フランクフルトで乗り継ぎますから、このトランジットの時間を含めると、17時間の旅になります。重いショルダーを下げ、スーツ・ケースを持っての移動は、かなりきついです。
3 夫婦仲が良いこと。
スペインで生活をすることになりますと、どうしても夫婦で一緒にいる時間が長くなります。日常生活でも、別々に行動するということは、日本で生活している時と比べて非常に少なくなりますし、何よりもスペイン、と言うよりもEU諸国は、何をするにも夫婦が単位ですから、夫婦仲がよい事が基本条件です。

カンポ・デ・クリプターナの風車と、そこを横切る羊の大群。ドン・キホーテは、この風車を巨人と間違え突進する。
スペイン生活のスタート
さて、以上の三点をクリアーできたとして、それでは実際に年金20万円で人生第三楽章、スペインでの生活を考えている皆さんの疑問点に、私の経験を通して答えたいと思います。
・ 居住許可証・労働許可証の取得
スペインで長期に滞在するという事になりますと、「居住許可証」が必要になります。さらに、スペインで働く場合には「労働許可証」も必要です。
この許可証取得の方法ですが、スペインでは日本の関係機関のように事はスムーズに進みません。私の場合も、東京のスペイン大使館、埼玉県警、スペインの日本大使館等に何度も足を運び、相当時間とエネルギーを費やしました。とにかく長期戦となります。
・ 資産の運用・管理をどうするか
次に、日本の円とユーロの運用・管理をどうするか、という事です。
これは、現金やトラベラーズ・チェックの持ち歩きよりも、外国為替送金の方法が良いと思います。
日本では今、私たちが思ってもみなかったゼロ金利時代となってしまいました。退職金と年金、そして預金金利でリタイア後の人生設計を考えていた私たちにとっては、まさに青天の霹靂であります。日本の銀行にデポジットしておいても現状維持なのですから、それなら何か他の方法を考えないと知恵がないですね。
それなら、スペインで資産の運用を、と考えたわけです。
スペインの銀行の定期預金金利で率が良いのは、私が調べた範囲内では、B銀行の5.5%です。スペインでは、郵便局まで金利を4.7%まで上げて来ています。(平成15年4月調べ)資産を有効に運用する方法として、外貨での運用は1つの考え方であると私は思っています。
カードの作成
スペイン・EU域内はカード社会です。マーケットやデパートで買い物をするにも、レストラン等で支払いをするにも、そのほとんどをカードで決済します。カードは、現地の銀行に口座があればつくることが出来ますが、経験的にはVISA等のゴールド・カードが何かと便利です。
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外国為替送金の方法
20万円の年金を、日本の外国為替を取り扱っている銀行にデポジットします。ファンドの一部もここにデポジットしておいた方が良いと思います。次に、スペインの銀行で、前記日本の銀行と提携している銀行で口座を開設します。
ここまで準備が出来れば、スペインから為替送金を依頼する事が出来ます。
今はこの手続きも簡素化されました。本当に有り難いです。私がマドリッド日本人学校校長時代、平成6年頃でしたが、当時は書類を作ってハンを押し、依頼書を日本まで郵送していたものです。それが今ではFAX可、Eメールも可となったのですから。送金されてくるのも早いですよ。東京の銀行にFAX又はEメールで依頼すると、3〜4日でマドリッドの銀行にユーロで振り込まれますから。
外貨預金は、毎日の為替相場の管理が出来れば、為替差益が期待できますので、資産の運用方法としては面白味があります。ただし、為替相場は、この逆もありますから、外為市場で毎日の円とユーロ、円とドルの相場をしっかりとチェックすることが大切です。
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20万円を外為送金すると
それでは、年金の20万円をスペインへ外為送金すると、ユーロではどのくらいになるのでしょうか。この資料を作成している平成17年6月の時点での為替レートで計算してみますと、1538.46ユーロとなります。(平成17年6月14日、Yahoo Japan!Finance調べ)1、538ユーロという数字をスペインの生活感覚に重ねてみますと、これで十分に生活出来る金額です。何しろスペインの平均的サラリーマンの月収は、1、500〜2、000ユーロですし、物価は日本よりもはるかに安いですから、贅沢を言わなければ大丈夫です。
外為送金は為替差益ばかりではありません。逆もあります。為替差損です。でもこれは、インターネットで外国為替相場を検索し、毎日の為替レートを睨んでいれば防げますから、心配ありません。
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住まいのこと
次に住まいの問題です。
私の場合は、仕事の関係とマドリッド日本人学校時代に住んでいたラス・ロサスの街がなつかしくて、結局ラス・ロサスの街(後にアランフェスの街に移住)にピソを借りましたが、選択肢はいくつかあると思います。都会がいいのか、田舎がいいのか、あるいは海か山かです。スペインの場合は、メセ―タの内陸部と地中海岸沿いでは、気候もかなり違いますから、スペインのどこに住むかは、慎重に決めたいところです。

メルカド(市場)の肉屋さん。日本のようにきれいにスライスして、グラム単位で売るのではなく、大きな塊で切り
分けてくれる。手前に下がっているのは「ハモン・セラーノ」。
ピソかチャレか
さて、スペインで住宅を探すということになりますと、方法は二つです。
現地の不動産屋さんを通すか、新聞セグンダ・マーノ等を買い求め、自分で探すかのどちらかです。セグンダ・マーノには、いろいろな情報が満載ですから、こちらのニーズにこたえた物件を探すことが出来ます。現地の不動産屋さんを通した場合は、礼金とか敷金とかが必要になり、結局、契約のときに当月分の家賃のほかに、さらに二か月分を支払うことになります。
ピソは集合住宅、チャレは一戸建て住宅ですが、スペインの生活に慣れるまではピソの方が良いと思います。スペインのピソは、石造りで暖房も完備していますから、冬でも室内は22〜5度前後に保たれ快適です。
家賃ですが、私が住んでいたラス・ロサスのピソは寝室2、サロン、台所、浴室2、ガレージ、共同のプール付で803.57ユーロ(104、464.1円)でした。私の場合は、妻から新しいピソで、電車の駅、バス停、メルカド(市場)に近いこと、と言う条件付きでしたので、少し割高のような気がしていますが、400〜500ユーロ(52、000〜65、000円)ぐらいのピソもけっこうあります。自分の足でいろいろと探してみるのも楽しいものです。
ああそうそう、これは大事なことなのですが、スペインで住宅を探す場合には「治安の問題」を忘れないで下さい。特にマドリッドやバルセロナのような大都会では、旧市街を中心にしてかなり危険な地区がありますから、たとえ安い物件が見つかっても、そこは避けた方が良いと思います。この国で生活する場合には、セキュリティ―の問題をどうするかを、いつも考えて下さい。
家賃等の支払いをどうするか
月々大家さんに取りに来てもらうのか、銀行振込にするのか、ということです。大家さんに毎月取りに来てもらうのは、けっこう煩わしいですよ。毎月決められた時間に、家にいなければならないと言う、こんな簡単なことが、年間を通すと払う側にしてみればかなり負担になるものです。約束の時間の30分から1時間遅れは日常的ですからね。ラス・ロサスでは、前者の方法でしたが、アランフェスでは、家賃の支払いから、電気、温水、水、電話代等の支払い全て銀行振込にしてもらいました。
さて、さっそく契約の段取りとなったのですが、大家さんの要求する書類が、パス・ポートのコピー、労働許可・居住許可証、保証人のレターと、まあ、ここまでは常識的なところでしょう。これに加えて、大学の給与支払いのノミナー、取引銀行の残高証明書まで出せと言うのです。名刺の肩書きは通用しない社会なんだということを痛感しました。

ラ・マンチャ地方のオリーブ畑。年間300日の晴天、抜けるような青空がオリーブを育てる。
車のこと
スペインで生活するということになりますと、車はどうしても必需品です。
私も着任早々、マドリッド市内のディーラーへ行き、いろいろと見て回ったのですが、さすがEU諸国、車種が豊富で見ているだけでも楽しくなりました。
私が求めた車は、アウディ―A4で27380.95ユーロでした。
参考までに、私がマドリッドのディーラーで調べた車の価格は以下の通りでした。
EU域内の車とその値段
アウディ―A4 2000 27380.95ユーロ(約355万円)
オペル・べクトラ2000GT 15773.80ユーロ(約205万円)
ボルボ460GL1600 14583.33ユーロ(約189万円)
ルノー・ラグ―ナ1800 15178.57ユーロ(約197万円)
シトロエン・サンティア1800 13988.09ユーロ(約181万円)
フォ―ド・エスコート1800 12976.19ユーロ(約168万円)
ゴルフ・ベント2000GL 15773.80ユーロ(約205万円)
トヨタ、ホンダ、日産等の日本車は、上記の車種よりもやや割高となります。
なお、EU域内の車は、そのほとんどがマニュアル車で、日本のようなオートマチック車は特別注文となり、納車までかなり時間がかかっていました。
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