プロローグ

学生時代からスペインと中南米・ラテンの国々の地理、歴史、伝統・文化に興味を持ち、ロス・パンチョスの歌った陽気なラテン音楽の「ソラメンテ・ウナ・べス」等、パンチョスのヒット曲の数々を口ずさみながら箱根駅伝のレース・コースで距離を踏み、へミングウェイの「日はまた昇る」を繰り返し読んでは、パンプローナの「闘牛」と「牛追い」の場面に自分自身の人生をオーバーラップさせて日本の中学校社会科教員の道を歩みましたが、この間いつかは「在外の教育施設(日本人学校)で勤務したい」との想いをふくらませてきました。
平成6年4月、日本の文部省の派遣で憧れの「マドリッド日本人学校」へ赴任して、スペインの首都マドリッドの北15キロに位置するラス・ロサスの街へ住みながら、春には真っ赤なアマポーラの可憐な花が赤い絨緞を敷き詰めたように野山を飾り、夏にはヒマワリの花が一面を黄色に染め、秋にはプラタナス、マロニエの木々が黄金色に映える美しい自然と、年間を通して四季折々にそれぞれの表情を見せてくれるラ・マンチャの小さな街の出来事や、日々の生活の中で異文化を感じた様子を「マドリッド通信」としてまとめ、第1号を発刊して以来、毎月1回の割合で更新してまいりましたが、平成16年10月で100号となりました。
この間、平成12年1月には、自前のウエーブ・サイト「マドリッド通信」を、ヤフー・ジャパンの支援を受けて立ち上げ、世界の国々へ発信することが出来るようになりました。
平成6年の発刊当初は、独り立ちも心許ない「マドリッド通信」でしたが、アロバ・スペイン、トキメキ・エスパーニャ等、スペインの通信社に取り上げられ、掲載されるようになってから、日本のマスコミ関係からのオファーが増加し、CGSジャパンの海外特派員としてスペインの危機管理レポートを機関紙に連載し、読売新聞の「よみうり博士」に「マドリッド通信」のEU関連論文が掲載され、また土曜日夕方のNHK地球ラジオでは、定期的に「マドリッド通信」をリアル・タイムで放送し、「アランフェスのイチゴ列車」や「スペイン列車爆破テロ事件」等スペインの四季、出来事を日本の皆さんにお伝えしてきました。
一方、地元埼玉県では、埼玉新聞編集局の皆さんの協力により、「スペイン教育事情見聞録」を埼玉新聞に連載させていただき、日本とスペイン・EUの教育を、日本の中学校長の視点で見つめ、「中学校教育の現状と課題」を多くの読者の皆さんと共に考え、同時に「日本の学校教育に欠けているもの」「中学校教育再生への道」「ロスト・ジェネレーション世代の教育をどうするのか」を提言してまいりました。
また、著者自身のライフ・ワークとして取り組んでいる「国際理解教育」「海外子女教育」では、埼玉県熊谷市立男沼小学校の皆さんと4年間にわたり、インターネットによる交流教育、合同授業に取り組んでまいりましたが、授業の様子はマドリッド通信の「授業公開」「QAルーム」に掲載し、日本全国の小・中学校の教職員の皆さんと「国際理解教育」「総合的な学習の時間」の取り組み方について、いろいろな立場で論ずることが出来ました。
続・マドリッド通信 −スペイン教育事情見聞録− は、長い間日本の中学校で管理職を勤めた著者自身が、その後欧州の学校教育に転じ、多くの「海外子女」及びスペインの学生と共に過しながら、欧州から日本の小学校・中学校教育を見つめ、日本の学校教育に対して強く抱く疑問点と、「公」の精神の欠落した日本の小・中学生の実態を中学校長OBの視点で洞察し、「今の日本の教育は良くない。このままでは、もっと悪くなる」とする基本認識のもとで、学習指導要領の内容の見直しと質的充実・量的拡大、小・中学校での総授業時数の1、050時間への復活、義務教育(小・中学校)に競争の原理の導入等を第一章で提言しております。
また第一章では、著者がマドリッド日本人学校校長時代に、天皇皇后両陛下のスペイン公式訪問の折、現地日本人会を代表しての空港への御奉迎、スペイン国王のパルド宮殿での御引見の際の緊張場面も書き綴りました。
第二章では、著者の専攻分野であるEUの統合を、「EU統合の歴史的必然性」として歴史に視点をあて、変貌するヨーロッパを歴史的な目で俯瞰し、収斂する姿を「歴史的な必然性」と捉えてまとめましたが、この論文は、後にスペイン文部省当局よりPROFESOR(教授)のステータスを授与される論文となりました。
第三章ポンペイ「古代夢の跡」は、紀元前4世紀以来、政治的・経済的、そして芸術的にも繁栄を極めていたイタリア・ポンペイの街が、紀元79年8月24日のベスビオ火山の大噴火によって、街全体が2000年前の生活そのままの姿で一瞬のうちに閉じ込められてしまいました。以来、当時のポンペイ市民の生活がそのまま火山灰の下で眠り続け、18世紀からの発掘によって、ポンペイ「古代夢の跡」が蘇ったのですが、数次にわたる現地調査の結果の一部を、著者自身の歴史観で掲載し、第四章では、多忙な日本の生活を離れて、著者自身が実践した「年金20万円でのスペイン生活」と、さらにその延長線上の「定年退職後の人生」を、スペインで楽しく過すためのノウ・ハウを収録しました。
本書は、以上のような著者自身のスペインでの11年間をまとめたものです。ご一読いただければ、望外の喜びです。
平成18年 2月 著者 加瀬 忠