中学校長夫妻のスペイン生活
60歳になっても「心肺機能」「循環機能」は向上するか?

マドリッド補習授業校
                                  校 長  加瀬  忠


 私は,学生時代から運動が好きで,陸上競技・バスケット・サッカー・ラグビー等,いろいろ  なスポーツに親しんできました。中学校の社会科教員になってからも,しばらくは体育主任と して校務分掌を担当していたくらいですから,よく体育の先生と間違えられたものです。
10Kトライアルの中間地点
 若い頃は運動のなかでも,スピードのある中距離走やバスケット等を中心に汗をかいておりましたが,年をとるに従って長い距離をゆっくり走るようになりましたね。 マドリッド日本人学校へ赴任した平成6年頃よりは,5000Mの記録や自分自身の心肺機能,循環機能等のことはほとんど考えないで,毎日夕方に8〜10キロくらいの距離をジョッキングしておりましたが,最近ふと「人間,60歳くらいの年になっても心肺機能や循環機能等を中心にした,身体諸機能はトレーニングによって向上するのだろうか」と言う素朴な疑問を持つと共にではそれをテーマに、自分自身で実験・研究に取り組んでみようと思ったわけです。
 日本を離れて遠くスペインで生活をしているわけですから,体力・気力ともに充実していなければ,ここではやって行けませんからね。
研究主題  60歳になっても「心肺機能」や「循環機能」等の身体諸機能は,トレーニングによって向上するか。
        サブ・テーマ  − 「行動体力は向上するか」 −
仮 説 「人間,相当年をとっても,心肺機能や循環機能等は,トレーニングによって若い頃のように向上する」
検証の方法 定期的に距離を定めてのタイム・トライアルと心拍数の管理
 マドリッドで生活をしておりまして、夏はあの暑さでしょう。もう毎日ビール,ビノを飲み,ハモン・セラーノ、チョリソ,ケソを食べる生活ですから,そろそろ身体のどこかがガ弱っている頃だと思っていますし,実験・研究に取り組むには少しきついテーマだとは思ったのですが,やってみました。
(1) 実験の方法と心拍数の管理
  a マドリッド郊外に8キロメートル,4キロメートルのコースを設定する。
  b それぞれのコースを予め設定されたタイムで走り,心拍数を測定する。
  c 心拍数は,走り終わった直後と5分後に測定し,オール・アウトの状態と回復状況を把握する。オール・アウトの状態での最大心  拍数を,180/ 分と仮定する。
(2) 実験・研究の期間
 a 平成12年5月1日(月)〜7月2日(日)の2ヶ月間とし,7月2日の群馬県沼田市で行われる玉原マラソン大会で7Kmを走り,研究のまとめとする。
 b 実験期間を次のア〜オの8週とした。開始前の身体状況 ・4K 23分20秒 心拍数172/分・7K 38分44秒 心拍数17  5/分
 ァ 走りこみ期間
 5月1日(月)〜5月14日(日)心拍数120/ 分前後での50〜60分走中心。テスト・トライアル5月 5日(金)7K 37分15秒 心  拍数150/ 分5月12日(金)7K 35分25秒  心拍数168/ 分
 ィ 第1クール
 
5月15日(月)〜5月28日(日) 心拍数150〜170/分でのペース走中心。テスト・トライアル, 5月21日(日)7K 34分33秒 心 拍数168/ 分5月28日(日)7K 33分57秒 心拍数180/ 分
 ゥ 第2クール
 
5月29日(月)〜6月11日(日)7〜8Kのペース走中心。テスト・トライアル,6月 1日(木)7K 33分09秒 心拍数174/分  6  月 9日(金)8K 39分35秒 心拍数162/分
 ェ 第3クール
 
6月12日(月)〜6月25日(日) 後半4Kを心拍数180/分くらいまで追い込む。6月15日(木)4K 18分30秒 心拍数180/分
 6月19日(月)4K 18分10秒 心拍数180/分
 ォ 仕上げ
 
6月26日(月)〜7月 1日(土) 日本へ移動  ロング・ジョッグとスピード走で調整し,体調を整える。
結 果
(1) 玉原マラソン大会参加 平成12年7月2日(日)
  ア 7Kmの部 32分27秒 ゴール直後の心拍数 180/分 (途中計時 3K通過  11分25秒, 5K通過 20分27秒)
(2) 最大酸素摂取能力は,心拍数120/ 分の運動を5分間継続すれば,確実に向上すると言われるが,以下の考察によりその事がわかる。
考 察
(1) 実験開始前の身体能力は,4K走を23分20秒,7K走を38分44秒で,タイム・トライアル直後の心拍数がそれぞれ172,175であった。
(2) 走りこみ期間中の5月12日,テスト・トライアルで7Kを35分25秒で走ったが,心拍数は168であった。走りこみ期間中より3分スピードが上がっているのに,心拍数は168で余裕が出来た。
(3) 第1クールでは7Kをさらにスピードを上げ,33分57秒で走ったが,心拍数は180であった。180はオール・アウトの状態である。 
(4) 第2クール,6月1日に7Kをさらにスピードを上げ,33分09秒で走ったが,心拍数は174で余裕が出来た。
(5) 第3クール,そろそろ仕上げの段階である。8K走時の後半4Kをオール・アウトの状態まで追い込み頑張ってみたら,18分10秒,心拍数180/分であった。
(6) 実験開始前,4Kを23分20秒で走った5分後の心拍数は120/分 であったが,第3クールで18分10秒で走った5分後の心拍数も同じく120/分であったことから回復力が大幅に向上している事がわかる。
(7) 以上考察(1)〜(6)により,計画的,段階的に負荷をかけ,量的にも,質的にもトレーニング量を増加すれば,60歳近くなっても心肺機能・循環機能を中心とした身体諸機能等は,確実に向上するものと考えられる。
問題点
(1) この実験は,若い頃から運動を継続している一個人の取り組みであって,一般性があるかどうかは,まだまだ研究の余地がある。
(2) 実験に取り組んでみて,かなりハードな内容だった。相当無理をして頑張ったが,疲労は残った。
(3) それでも,個人としては実験をやり遂げたと言う「充実感」は,今後の財産となった。