マドリッド通信>43号

 オーラ ケ・タール?
 日本の秋はいかがですか。楓やツタなど、紅葉が美しいでしょうね。
 スペインでは、マロニエ、プラタナス、西洋ポプラなどの黄葉する巨木が街中を覆っているため、この時期、ラス・ロサスの町も黄金色に染まっています。
 長く、厳しかった夏から、つかの間の秋を過ぎ、冬将軍はすぐそこまで来ています。「南の国スペイン」「情熱の国スペイン」、スペインと言う国は、日本よりもずっと南にある暑い国と、感覚的には思ってしまいますが、実はマドリッドの緯度は北緯40度、日本ですと岩手県の盛岡市より少し北なんですね。ですから冬の寒さはけっこう厳しいのですが、日本と少し違うのは、この時期でも風向きが変わり、サハラ砂漠から南の風が吹いてくると、気温は一気に10〜15度くらい上昇します。マドリッドの街で、コート姿の女性と半袖Tシャツ姿の若者を見かけるのも、この時期の風物詩かもしれません。

新しい企画の立ち上がり
 マドリッド補習授業校では10月から、地域のスペイン人等を対象にした「教養講座」「日本語講座」の新しい企画を立ち上げました。
 学校は子供たちに勉強を教えるところろ、長い間そう思い、何の疑問も持たずにそうしてきましたが、ふと「在外教育施設で保護者や地域のスペインの人々に勉強を教えたらどうなのだろうか」と思い、この企画を思い立ったわけです。
 スペイン人を対象にした「日本語講座」は予想どおりの反響で、楽しく授業をしていますが、一方、日本人の保護者を対象にした「教養講座」は不人気で、今一つ盛り上がっていません。講座開始前のマーケット・リサーチでは、かなり良い数字が出ていたので、私としては相応の期待をしていたのですが。

オーイ・・待ってくれ!
 スペインの道路行政は日本と比べて相当進んでいます。
 この国の社会資本の蓄積については「ストックとフローの差」として、42号でお届けしましたが、道路網の充実にも目を向けなければなりません。
 マドリッドを起点にして国道が6本、東西南北に延びており、スペイン国中、どこの街へも通じています。移動時間も100Kを一時間で計算すれば、さほど無理な計画ではないですからね。我が家の前の国道6号線も8車線で、サンチャゴ・デ・コンポステーラまで真っ直ぐに延びています。
 それで、これだけの道路網を作り上げたのは、フランコ総統の死後、現在のカルロス国王の時代になってからなんですね。フランコ総統の名前が出て来たりすると、相当前の時代のような気がするのですが、カルロス国王が即位したのは1975年、昭和50年のことですから、ついこの間なんです。四半世紀でこれだけの国家的大事業を成し遂げる事ができる国というのは、やはりすごいと思いますよ。
 ところで、これだけ道路網が充実している国の、列車事情はどうなっているのかと言いますと、これがまた何とも捨てがたい魅力、人情が残っているのです。
 列車時刻表は一応あるんですが、まあ、日本のJRのようなわけにはいきません。
 時間どおりきっちりと走るのは、マドリッドからセビージャまでの新幹線、AVEぐらいのものでして、他はまあ、おおよその時間と思っていたほうが良いでしょう。
 過日、列車に乗って北のエル・エスコリアルの街へ出かけました。列車がラス・ロサスの駅を出て間もなく、トイレを我慢出来なくなったSra.が、車掌さんにお願いし、次の駅で、臨時のトイレ休憩の停車と相成りました。私も暇だったものですから、時計を見ていたんですが、「3分間」の停車でした。でも、だれもイライラせず、皆が知らぬふりをしているところがいいですよね。
 帰りの列車がまた愉快で、始発列車だったものですから、時間になってドアーが閉まり、発車かと思ったのですが、改札口を「オーイ、待ってくれ!」と駆けてくる若い男の子がいるんです。車掌さんどうするかな、と、興味深く見ていると、線路、ホームを横切り、駆け抜けてくる若者を待ち、ドアーを開けて乗せてくれるんですね。イヤー、いいですよね。時間通りに几帳面もそれなりの良さはありますが、こういうのって、人生に余裕がなければ出来ませんよ。人間が大きいのかなー。羨ましい。

マラゴン村の農場にて
 マドリッドから車で南へ走ると、乾燥し赤茶けた大地が果てしなく続きます。
 一体このあたりでは雨が降ったことがあるのだろうか、と思うほどの痩せて乾いた大地がラ・マンチャ地方には広がります。
 このような厳しい自然条件の中でのスペインの農業について、私自身、非常に興味と関心があったものですから、ホアンさんにお願いして、生まれ故郷マラゴン村の農場とチーズ工場へ案内してもらいました。
 マドリッドから国道4号線を南へ200キロ、サフランの産地で名高いコンスエグラ村の風車を左手に見ながら、田舎道をさらに南下し、人っ子ひとりいないラ・マンチャの真っ只中に、ホアンさんの生まれ故郷、マラゴン村はありました。
 人口8,000人に満たない小さなマラゴン村では、村人が皆顔馴染み、ホアンさんは至るところで知り合いの歓迎を受け、もうスターなみです。
 先ず農場へ案内してもらいました。降水量が月平均39ミリ、年間の300日以上が晴天のラ・マンチャ地方では、どう考えても作物はうまく育たないと思うんですよね。それに夏はあの強烈な太陽でしょう。土地もゴツゴツの赤土ですから、農場の条件としては、日本と比べて問題にならないくらい悪いです。
 ですから昔は、オリーブ、ひまわり、ブドウなど、乾燥に強い作物だけしか育たなかったのだそうです。ところが、私が訪れたマラゴン村の農場では、ふだん草、キュウリ、インゲン豆、カラバシンなどが青々と育っているのです。
 そこで私の疑問その1。水の問題ですが、マラゴン村では地下の伏流水が、地下8mのところを流れているため、地下水が得やすいということがわかりました。自然とは不思議なものです。あんな、ドン・キホーテがやせ馬ロシナンテ号にまたがって、駆け巡った荒野の地下に、満々と水を湛えた伏流水が流れているのですから。
 疑問その2。それにしても、あの乾燥したラ・マンチャの大地では、灌水しても、灌水しても蒸発してしまい、採算性を無視しなければ、農業はやってゆけないのではないか、ですが、この疑問はホアンさんの説明がなくても、すぐに答えが見つかりました。農地をビニールで全部覆ってしまうんです。ビニール・ハウスのラ・マンチャ版です。なるほど、これなら蒸発を防げますね。それにしても、今の季節は快適ですが、夏、45度の世界でビニール・ハウスでび農作業はどうしいているのかという、新たな疑問が生じてしまいました。この疑問は来夏まで楽しみにとっておきます。
 帰りにラ・マンチャの大地と太陽が育てたインゲン豆、ふだん草、キュウリ等を各1キロずつ買ったんです。仕事をしていたSra.が、大きな段ボールにドサッと入れて「はい、1キロ」と言うんですね。「えっ、秤で計ってないじゃないですか」と、思いかけてやめました。そうか、ここはラ・マンチャだったっけ。

ビノと山羊のチーズ
 ラ・マンチャ地方は昔から、羊や山羊の放牧が盛んです。
 今でも、カンポ・デ・クリプターナやコンスエグラ村では良く羊の大群を見かけますが、この羊や山羊の乳で造る良質のチーズが、マラゴンの人たちの自慢なのです。
 ホアンさんの案内で、次はチーズ工場の見学です。工場と売り場が隣り合わせの店先では、地元の人たちが子供の頭よりも大きなチーズの塊を、一つ、二つと買っています。土地の人たちがこれだけ買いこむのだからよほどおいしいのだろうな、と思って感心して見ていると、地下の熟成室から持ってきてくれた自慢のチーズを切り分けて「さあ食べてみろ」と、試食させてくれました。
 ラ・マンチャのチーズはおいしいとは、かねてから聞いていましたが、このチーズと、今年の秋にとれたばかりのブドウを搾った、ビノ・ヌエボとの味のハーモニーは、やはり絶妙です。サンチョ・パンサは、これと生の玉ねぎも一緒にかじってましたが、ビノとチーズと生の玉ねぎの組み合わせの味覚は、セルバンテスだけのものかも知れません。私にはどうも。

電力料金の値下げ
 2002年1月、EU15か国は、単一通貨ユーロの導入を以て、完全統合を成し遂げます。スペインの経済も、EU統合前夜の特別需要(ペセタからユーロに切り替わるためのブラック・マネー『ペセタ』の流通)によって活況を呈しています。ピソやチャレなどの不動産価格は、5年前の倍くらいに上がっており、驚かされます。しかし、これは統合前の一時的な特需ですから、時を待って沈静化の方向へ向くと思われます。
 今回、特に取り上げたいのは、電力料金等、エネルギー関連産業の環境急変であります。
 我が家の電力料金の請求額が、一ヶ月4000Pts(約3000円)だったので、少し詳しく追跡してみました。マドリッドの我が家の一ヶ月電力消費量は、おおよそ300kw前後です。この数字は、熊谷の加瀬家の数字と余り変わりません。日本の電気料金は、確か2〜30000円ぐらいだったでしょうか。
 スペイン、と言うよりもEUの電力料金はすごく安いと思うんですよ。これにはやはり理由がありまして、EU諸国は、電力の統一市場を目指して販売が自由化されているのです。「電力の販売の自由化」、うん、さすがと思うんですが、電力を「発電」「送電」「販売」と分割して民営化し、電力料金に市場原理を導入したのです。EUでは大変な企業努力をしています。

預金の金利も競争原理で
 日本では今、ゼロ金利時代ですよね。EU銀行では、これが全くの自由競争でありまして、日本の銀行のように金利が横並びではないんです。A銀行、2%。オランダのB銀行は3.1%。C銀行、4.1%。D銀行、5.5%と言った具合です。当然D銀行を選択しますよね。それでは、アディオス。