マドリッド通信>55号

 オーラ ケ・タール?厳しい寒さの毎日ですが、いかがお過ごしですか。我が家から見えるナバセラーダの山並みもすっかり雪化粧で、朝日に映える稜線は一面の銀世界です。この時期、週末にはスキー場へ向かう家族連れの姿が目につくのですが、私から見ると、スペインと冬の雪景色は重なりません。どうしても中学校の歴史の時間に学習した「南蛮貿易」とか「南の国スペイン」とかのイメージが色濃く残っているものですから、スペインは日本よりも遥か南の国、と思ってしまうのですが、実はスペインの首都マドリッドの緯度は北緯40度で、冬の寒さはかなり厳しいのです。

市場価格の原理

 マドリッド通信53号から、スペインのビールの値段を中心に、EU域内の価格競争についてお伝えしておりますが、日本から帰って、先週久し振りにスーパー・マーケットへ行ってみましたら、またまたビールの値段が下がっているではありませんか。今度は一缶35Ptsのオランダ・ビールの参入です。35Ptsといいますとね、今の為替レートで換算すると、何と22円ですね―。暮れから正月にかけては、一缶200円の日本のビールに目を白黒させていたものですから、スペインへ帰って、改めてEU統合の影響によるスペイン業界全体の厳しい価格競争を実感しているのです。
 スペインにはサン・ミゲル、マオーという二つの大きなビールメーカーがあるのですが、ドイツ、オランダ等EU諸国のビールが市場へ参入したことにより、この二大メーカーを中心にしたスペインのビール業界がどのように動くか、私はとても注目していたのです。いち早く対応したのはサン・ミゲルでしたね。76Ptsから59Ptsまで下げましたから。マオーはしばらく76Ptsのままだったのですが、これも先週72Ptsに下げました。
  スペインの人たちのビールの買い方を見ていますと、72Pts、59Ptsのビールと35Ptsのビールが並んでいれば、当たり前のことですが35Ptsの棚の方が早くなくなりますよ。当然ですよね。私だって、このところ毎日35Ptsのオランダ・ビールを飲んでいますから。市場価格の原理は厳しいですよ。自国のビールと言えども、高ければ買いませんからね。

EUの統合により、価格競争が激化しているスぺインのスーパー・マーケット。

スペインに見る「EU統合のかたち」

 EUの完全統合は、2002年1月の統一通貨「ユーロ」の市場流通を残すのみとなりました。21世紀の世界経済は、日・米・EUの三極に大きく収斂されると私は考えておりますが、これら3ヶ国のうち、EUのめざす国家としての経済・社会はどのようなかたちになるのか、自分がこれから住む国ですから、私は非常に興味と関心があるのです。
  20世紀の世界は、その中心が石炭、鉄から石油へと進み、そして後半にはIT・情報技術革新が世界経済をリードしてきましたね。21世紀の世界経済は、引き続きIT・情報技術とバイオ・テクノロジー関連技術がその牽引車となると考えられますから、世界規模での競争は益々激化し、競争力のある国、企業のみが勝ち残る社会になっているのでしょうか。アメリカのシリコン・バレーが20世紀末の世界経済をリードしたように・・ね。
 いや、私はね、スペインに生活していて、どうしてもそうは考えにくいのです。EUの国々の歴史や民族性を考えると、どうしてもアメリカ型の競争社会・経済は、EUの国々にはなじまないのではないかと思えるのです。一方、着々と進む世界のグローバル化と情報化への対応を求められている事も厳然たる事実であります。
  こうした急激に変化する世界経済の大きな流れの中で、スペイン社会は、この国の伝統的な価値観である、シェスタの習慣を守り、神へ祈る日曜の安息日等を残しながら、新たに「第三の道」を模索しているのではないでしょうか。アメリカ型の活力ある自由競争社会の良さをとり入れながらも、スペイン独自の良き伝統や価値観を残した、いわば成熟し安定した大人の国家をこの国は、と言うよりもEU全体は模索しているように私には思えるのです。

ピレネー山中のスペインとフランス国境。両国を遮断する物理的障害物は何もない。こちら側がスペイン、向こう側がフランス。

うらやましい観光収入

 過日、マドリッドの情報サイト、アロバ・スペイン社のインタビュー記事の冒頭で「スペインと日本の一番の違いは何か」との問いに、私は迷わずに「それはストックとフローの差ですよ」と答えました。実際、15世紀〜16世紀に始まる大航海時代からの、この国の社会資本の蓄積量は大変なものです。一時期、世界を制覇したその豊かな富を、カテドラルや公共施設の建築物、公園、道路等の建設・整備に向け、次の世代に残したのです。

セゴビアの街に残るローマ水道橋。
2000年の時を悠久に刻み、今なお完全な形で残る。
かつてスペインの首都であったトレドの街。
グレコが画いた街がそのまま残る。

 スペインは今、経済的にはEUの中でもイギリス、フランス、ドイツ等よりも遅れをとっています。一人あたりのGNPをみても、ドイツが23、560ドル、フランスが22、360ドルであるのに対して、スペインは13、650ドルです。日本は31、450ドル(96年世界国勢図会による)。失業率も、99年7月現在で、スペインは15.9%と、EU平均の9.3%を大きく上回っています。しかし、街行く人々の様子は活気にあふれ、おしゃれで日々の生活を楽しみ、週末には道路が渋滞するほど、こぞって海や山に繰り出すスペインの人たちのライフ・スタイルを見ていると、どうしても一人あたりのGNPが13、650ドルの国とは思えないのです。
 ところが、スペインの貿易収支を調べてみますとね、ここには出てこない大きな数字が目につきました。貿易外収支に5兆800億ペセタの観光収入が計上されているのです。すごい額の数字です。何と、年間に7、639万人の観光客が、黙っていてもスペインを訪れ、一人あたり66、500ペセタのお金をスペインに落としてゆくのです。先代が、そして、その前の世代が営々として築いた膨大な国家遺産が今に生きているのです。スペインの社会を見ていると、単に数字の上には現れない、気が遠くなるような時の流れを感ずる事が多いのです。

EUの国々を週末に旅すると 〜こぼれ話〜
 週末の土曜日から日曜日にかけて、EU諸国を飛行機で旅するとどうなるのでしょうか。日本ですと、休日、休前日料金で支払いが高くなりますよね、加えて観光地のレストランや土産物店も比較的割高で、それでも余り文句を言う人はいないでしょう。そういうものだと思ってますから。私も日本にいたころは、全く疑問に思わなかったものです。
 ところがスペインで生活をし、EU諸国を旅していて大変な事に気がつきました。EU諸国では、週末に旅をすると大幅なディスカウントの制度があるのです。土曜日の夜を旅行先で過すと割り引きになるのですから、日本と全く逆ですよ。同じ旅行をして、日本だと高くなり、EUだとなぜ安くなるんでしょうか。全く理由がわかりません。
 たとえばローマへ行きますでしょう・・ノーマル運賃ですと往復17万1750ペセタするのですが、土曜日にマドリッドを出発し、ローマで土曜日の夜を過ごすと、これが往復で何と2万8千ペセタになるのです。バルセロナですと、3万8600が1万4400といった具合です。
 ですから私は、EUの国々を旅するときは、学校が終ってから飛行機に乗り、この週末割引制度を大いに活用するようにしています。支払いは、もちろん円のビザ・カードをぺセタで落とします。それにしてもわからないなー・・。

おいしい「チリンドロン」 〜ひとりごと〜
 スペイン料理を食べていましてね、セグンド・プラトに肉料理を注文しますと、赤ピーマンやトマト、そして滲み出た肉等のエキス分が残りますよね。あれをどうするか・・と、スペインの人たちの食べ方をみていて「なるほどなー」と、思いました。スペインの人たちは、あれを残しませんよ。パンにつけてきれいにしてしまいます。私も、バケットにチリンドロンをつけて食べてみました。いやー、美味しいんですよ。特にポージョ(鳥の蒸し焼き)のチリンドロンは絶品です。
 日本では「行儀が悪い」、と注意されてしまいそうなことですが、まあとにかく食べてみて下さい。そうそう、パンの食べ方で、これも是非おすすめします。バケットにエスプレッソ・コーヒーを少し浸して食べてみてください。

アディオス

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