マドリッド通信>56号

 オーラ ケ・タール?スペインでは、アルメンドロの花が咲き始めました。ついこの間、2月の第一週くらいまでは寒さが厳しく、毛皮のコートを着ていたのに、今週に入って急に春になってしまった感じです。街の温度計も日中は15〜6度まで上がり、運動をしていても汗ばむ程です。ドン・キホーテの国スペインの四季は、長く厳しいけだるい暑さの夏と、身を切るような寒さの冬、そして、ほんの少しの春と秋と言った感じで、日本の「春はあけぼの」の風情とは少し距離を感じます。

EU諸国が模索する「第三の道」

 マドリッド通信55号で、スペインに見る「EU統合のかたち」として、21世紀の世界経済は、その収斂過程のなかで、国としては日・米・EUの三極に、形としては、一つは世界規模での競争は益々激化するから、アメリカ型の競争力のある国、企業のみが勝ち残る社会、もう一つはEU諸国にみる、アメリカ型の活力ある自由競争社会の良さを取り入れながらも、ヨーロッパ独自の古き伝統や価値観を残した成熟した大人の国家が出現するのではないか、と発信しましたら、反響が非常に大きかったので、EU諸国が模索する「第三の道」について、もう少し考えを述べさせていただきます。


マヨ―ル広場の午後の一時。
音楽演奏を聴きエスプレッソ・コーヒーを飲みながらお喋りをする、
スペインの人たちのシェスタの生活習慣は変わりそうもない。

 私は、平成6年にマドリッド日本人学校の校長としてスペインへやってきました。今から8年前です。当時は、EUが統合され、競争型社会が実現されれば、スペインも変わらざるを得ない時代が来るに違いないと思っていました。その時期は、EU統合が完了する2002年前後なのではないか、と思っていたのです。
 ところが、EUの完全統合は2002年1月の統一通貨「ユーロ」の市場流通を残すのみとなった今、スペインの社会はそれほど変わっていないのですねー。人々はシェスタの習慣を守り、神へ祈る安息の日曜日には店も閉まり、この日に働いている人は極く少数の人たちだけなのです。
 シェスタの習慣・・そう、これこそスペインの人たちが頑として譲ろうとしない伝統的な生活習慣なのです。私はね、日本人学校へ赴任した当初、スペインの人たちもこの生活習慣を改めてもう少し働けば、ずいぶん生産性が向上するだろうに・・と思ったものです。 実際、スペインの生産性は年率0.44%で、EU平均の1.7%を大きく下回っているのに、午後2時から4時半ないし5時前後までは一時活動が止まってしまうのです。
 我が家でも、今は急な用事があっても、午後2時から4時半までのシェスタの時間帯には電話をかけませんし、スペインの人たちはお互いにこの暗黙のルールを皆守っていますから、とても不思議に思えるのです。しかし、私の人生観からするととても不思議に思えるこのことこそが、21世紀にEU諸国が模索する「第三の道」を理解する上での、キーワードになりそうなのですね。

国家の成長・発展過程

 国家の発展・成長過程には三つの段階があるような気がします。初期には経済性・豊かな消費生活を志向した国づくり、先進工業国に追いつき、追い越せの段階です。日本では、東京オリンピック前後から「所得倍増」を目指していた時代がこの第一段階。
 そして、経済的にも安定し、国家として成熟した社会が構築される前の段階では、我が国でもそうであったように、社会的な安定を志向した「大きな政府」による高福祉政策がとられます。しかし、この高福祉政策「ゆりかごから墓場まで」は、経済が右肩上がりで成長し続けることが前提になりますから、当然限界があるわけです。加えて出生率が低下し、こどもの数が少なくなれば、高福祉政策は支えきれなくなるのは、自明の理であるわけです。パイの大きさは限られていますから。
 こうしたなかでEU諸国が模索する新しい国づくりの道は、アメリカ型の活力ある自由競争社会だけでもなく、かつてヨーロッパ諸国が自ら体験した「大きな政府」による「高福祉」「高負担」社会でもない、国家としての歴史や伝統、民族共通の価値観を大切にした「安定した国づくり」を求めているような気がします。これこそがEU諸国が21世紀に模索する「第三の道」と言えるのではないでしょうか。

ゆりかごから墓場まで
 社会保障制度の充実を形容する言葉。第二次世界大戦後、イギリスの労働党政権が掲げたスローガン。「高福祉」「高負担」が前提となっている。

グラン・カナリア紀行

  EUの国々を週末に旅すると、約65%から最大85%の大幅な週末ディスカウント料金の制度があり、土曜日の夜を旅先で過すと、この制度が適用されるのです。
 55号では、バルセロナとローマの例を紹介しましたが、パリ往復ですと、ノーマル運賃が170、500Ptsであるのに対し、週末ディスカウントですと27、000Pts、ロンドンですと149、150Ptsが37、150Ptsと言った具合です。
 私は、航空運賃や大きな買い物の支払いは、円のビザ・カードで落としていますから、週末割引のマドリッドからロンドン往復、37、150Ptsは24、147円ということになります。これですと、土曜日の夕方ロンドンへ出かけ、日曜日の夕方にマドリッドへ戻る旅も、それほど無理がないですよね。ヨーロッパに住んでいて、この週末割引のラウンド・トリップは、さすがEUだと思いますよ。
 さて、今回は65%引きのグラン・カナリア紀行です。カナリア諸島、そうマドリッドから南へ1、500K、西アフリカから約200Kの大西洋上に浮かぶ島です。この「幸福の島々」、れっきとしたスペイン領土なのです。1492年、コロンブスがウエルバの港を出航し、サン・サルバドル島への途上、水、食料等の補給で立寄っている島です。
 ラス・パルマスの街から海岸沿いにGC1号線を南に約1時間走ると、プラジャ・デル・イングレスの海岸線に美しい砂丘地帯が広がります。


プラジャ・デル・イングレスの美しい砂丘。
HOTEL・Riu Palaceの砂丘入り口から素足で歩いて海岸線まで約1時間。
乾燥しているので、水が欲しくなる。

 この海岸は名前が示すように、イギリス、ドイツ、北欧の人たちの専用ビーチのような感じで、スペインの人たちの姿は、ほとんど見られません。グラン・カナリアの海岸線は、2月だというのに日中は30度を越えます。もう真夏の世界ですね。
 ヌーディスト・ビーチ プラジャ・デル・イングレスの美しい砂丘地帯を海岸線に向かって歩くこと約30分、ちょうど海岸線までの中間点あたりから、日光浴をしている人々の様子が少し変なのですね―。どうも、遠目にも水着を着けているようには見えないのです。最初は目の錯覚かなと思って「あの人たち裸かね―」と、妻に話してみると、やはり同じことを思っていたようで「そうよねー・・」と言う返事。もう少し歩くとその数が次第に多くなり、海岸線近くになると、もう、ほとんどヌーディストなんですね―。
 ここまでくると、衣服を着けているこちらが正常なのか、裸のあちらが正常な感覚なのか、少しおかしくなってしまいましたよ。それにしましてもね、私も話には聞いていたんですよ。カナリア島にはヌーディスト・ビーチがあるとね・・しかし、あれだけたくさんの人たちに囲まれると、やはり文化の違いを感じますよ。日本では考えられないですよね、全く驚いてしまいました。ハイ・・  日照時間の少ない北欧圏の人たちの、太陽に対するノスタルジアは信仰に近いものがあるのでしょうか、それとも本当に宗教のような別の物があるのかな―、今のところ謎です。

オーラ ケ・タール?のあいさつ 〜ひとりごと〜
 あれ・・聞いたことのあるスペイン語ですが、そうです、マドリッド通信の冒頭のあいさつがいつも「オーラ」ですよね。これ、日本語に訳すと「やあ・・お元気」となるのです。
 私がね、夕方のジョギングが終ってピソへ帰るでしょう、そうすると子育て中のスペインの人たちが、たくさんホールに集まってよもやま話に花が咲いています。そして誰もが日本人の私に対して「オーラ」のあいさつをしてくれます。父親、母親の姿を見て、乳母車に乗っている乳飲み子までが「オーラ」と声をかけてくれるんですよ。私は、スペインで生活をしておりましてね、この国の人たちのとても好きな・・というよりも「いいよなー・・」と思っていることの一つがこのあいさつなんですね。
 乳母車に乗っている乳児の頃から「オーラ」のあいさつをしていれば、中学生になってもあいさつが出来ますよ。これは指導の問題よりも、養育・躾の問題だと思うんですが。

郵便料金の値下げ
 EUが統合され、ビールをはじめ、生活必需品等に需要と供給の関係による市場価格の原理が働き、EUのマーケットに値下げ競争が加速している様子をお伝えしていますが、過日マドリッド通信55号を発送するために郵便局へ行きましたら、日本までの郵便料金が155Ptsから、120Ptsに下がっているんですよ。電気、ガス、水道等の基幹産業料金に続いての値下げですから、これもEU統合による通信・規制緩和のビッグバンと理解することが出来ます。今、スペインでは、EU統合による追い風が吹いています。

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