マドリッド通信−65


 マドリッド補習授業校
 校長   加瀬  忠

 オーラ ケ・タール?
 厳しいい寒さの毎日ですが、いかがお過ごしですか。
 ヨーロッパの2002年の夜明けは、統一通貨「ユーロ」の流通と共にやってきました。人口3億、域内GDPが8兆億ドル、一人当たりのGDPが2.2万ドルと言う、経済規模では米国に次ぐ世界第二位となる「ユーロ通貨圏」が誕生したのです。ヨーロッパの国々が、世界の基軸通貨米ドルへの対抗を合言葉に、30年越しですすめてきた通貨統合は完結したのです。

 ユーロ流通後のヨーロッパ
 
フランスの「フラン」、ドイツの「マルク」、イタリアの「リラ」等、どの通貨をとっても長い歴史と伝統を誇る通貨です。これらの通貨が「ユーロ」に統合されたのですから、ヨーロッパの人たちの、悠久ひさしい大きな歴史の流れを受け止める懐の深さを感じます。
 EUの統合は、私たちに近代国家の概念を変えさせましたね。
 国家とは通常、領土・人民・主権がその概念の三要素と考えられ、それは多くの場合「単一国家」を意味していたと思うのです。さらに、主権国家が、自国の主権を一部でも委譲する場合は、私には戦争以外の方法では考えられなかったのですが、EU諸国は戦争以外の方法で、自国の主権の一部を委譲したのです。
 国家としてのEU(ヨーロッパ連合)は、経済通貨統合と共通の外交・安全保障政策の実施を目指しているわけですが、この形は、21世紀の新しいもう一つの国家のあり方を示唆しているようにも思えます。
 さて、それではこの歴史的なEU統合後のスペインの市民生活等についてお伝えします。

 「ユーロ」ないわよ
 
2002年1月1日から「ユーロ」は、参加12ヶ国で流通しているはずです。
 私は暮から正月は日本で過し、休暇明けにスペインへ帰りましたので、翌日、さっそく「ペセタ」を「ユーロ」に替えてもらう為に近所の銀行へ出かけたのです。顔なじみのセニョリータがニコニコと応対してくれたのですが「セニョール、ユーロはないわよ」・・とのこと。街の人たちが一斉に「ペセタ」を「ユーロ」に替えてしまったために「ユーロ」がなくなってしまったのだと言う。
 「えっ・・何たることだ」、私はぶつぶつ文句を言いながらラス・ロサスの別の銀行へ行き、やっとユーロを手にすることが出来ました。 それでも、この「ユーロ、ないわよ・・」は、混乱の第一ラウンドでした。
 午後にラス・ロサスの街へ買い物に行ったのですが、お釣りをペセタでくれるんですね。あれっ・・1月1日以降は、お釣りはすべて「ユーロ」ではないんですか・・やっと手に入れた「ユーロ」なのに、こちらが何だか損をしたような感覚なんですね。
 マーケットはどこへ行っても長い行列です。ペセタとユーロの換算、お釣りの計算に手間取っているのです。お客も店員も、計算機持参ですから時間がかかります。


マドリッドの肉屋さん。
「ペセタ」と「ユーロ」の換算に手間
取り、
マーケットのどこも長い行列が続いている。

 自動販売機、電話、電車の切符販売機等は、ユーロ・コインであったり、ペセタ・コインであったり、まちまちです。電話などは公衆電話ボックスがまだ昔のままですから、ユーロ・コインでは電話はかけられません。もう3週間もたっているのに、スペインの人たちは皆平気です。
 2002年1月1日から「ペセタ」に替わって「ユーロ」が流通することは前々からわかっていることですから、私の感覚としては、それぞれの関係者がシステムの変更に備えて、ハード、ソフトの変更を徹夜で行い、12月31日から1月1日の0時を期して全てユーロに変更になるのではないんでしょうか。当たり前のことだと思うのですが。
 ああそれでも、スペインの人たちは365日、マニュアルのない自己責任の世界で生活をしていますから、このようなこと(混乱)に慣れているのですね。
 うーん、やはり文化の違いを感じます。異文化を理解することは時間がかかります。

 価格差くっきり
 
私は、日本とスペインの間を往復する時は、いつもオランダのアムステルダムで乗り継ぎ、マドリッドへ帰るようにしていますが、今回は、大変なことに気がつきました。
 いつもですと、アムステルダム空港での免税店等の価格表示がオランダ「ギルダー」でしたから、スペインのペセタとの価格比較がうまく出来なかったんです。ですから、待ち時間にビールを飲んだり、エスプレッソ・コーヒーを飲んだりしても、ハイネッケンの500ミリリットル入りのビール代4.04ギルダーが、一体いくらなのかを考えたことがなかったのですが、今回はユーロ表示ですから価格差がはっきりとわかりました。
 オランダのアムステルダムとスペインのマドリッドで価格を比べてみました。
                      単位 ユーロ(1ユーロ=約117円)

   
  価格比較・アムステルダムとマドリッド
(平成14年1月10日調べ)

       
        アムステルダム マドリッド アムステルダム   マドリッド

ジョ二黒  28.50 16.19 コーラ 一本 1.50  0.65
シーバス  29.05 17.16 水(小)一本 1.15  0.21
マルボロ   3.10  2.55 リンゴ一個  0.86  0.35
エスプレッソ 1.75  0.84 ワイン一本 13・10 11.42
ハイネッケン 1.85  0.75 トマト一個  0.68  0.25

 同じモノやサービスなのに、EU域内の価格差がはっきりとわかるようになったのです。今後は、市場価格の原理により、国境を超えた企業間の価格競争がさらに加速することが考えられます。

EUの統合により、人の動きに活気が感じられる。
アムステルダム中央駅にて。

 為替交換の壁がなくなる
 
日本からの帰途、アムステルダムで飲んだビール代の支払いが、今まで苦労していたギルダー(1ギルダー=約53円)ではなく、ユーロ(1ユーロ=約117円)でしたし、マドリッドへ到着してからのタクシー代の支払いもユーロでしたので「ああ、ヨーロッパは本当に一つの国になったんだなー」・・と、実感しました。
 今までですと、移動する国ごとにその国の通貨に交換をして買物等をしていたわけで、この為替手数料が、旅行費用の5%はかかっていましたから、旅行者の立場からすればEUの統合による、経費節減効果は大変な額になるわけです。
 さて、空港からのタクシー代、ラス・ロサスの我が家までの支払いが29.95ユーロでした。支払いが終って、計算機で換算してみると、4、995ペセタなんですね、あれッ・・今までは、我が家から空港までのタクシー代はたしか4、500ペセタ前後でしたから、ちゃっかり便乗値上げをしているのです。
 翌日バスに乗ってマドリッドの街中へ出てみたのですが、バス代も、電車・地下鉄も、皆値上げをしているのです。交通機関の値上げ平均が、約7.7%、地下鉄、バスに至っては約8.7%も上げているのです。
 EUの統合により、国を超えて市場規模が拡大し、企業間の価格競争が加速する等の経済効果が期待されているわけですが、一方でこのように一部交通機関で見られるような便乗値上げは、忍び寄るインフレと、さらにインフレと不況が同時にやってくるスタグフレーションの暗い影を感じさせます。

 こぼればなし

 
 加瀬先生還暦記念5000
M
記録会

 昭和16年に生まれた私の60歳、還暦を記念して、妻沼東中学校時代の教え子たちが「5000M記録会」を熊谷ラグビー場で開いてくれました。

 結果は1位 大島敏男 22分50秒、2位 福島眞次 22分52秒、3位 加瀬忠 22分54秒、4位 大島美津男 24分00秒、5位 大鷲実 24分58秒、6位 塚田祐二 25分45秒でした。

記録会終了後、盛大に懇親会を行ってくれたのですが、応援団から「どうして1位を先生にゆずらなかったんだ」と、福島君(そうです、マドリッドでスリ退治をした警視庁の警視殿)たちが責められたんですね。そうしましたら、福島君曰く、そんなことをしたら「馬鹿野郎!手を抜くんじゃねー」・・と、先生に怒鳴りつけられそうな気がして、俺も必死だったよ。

 そうです。中学生時代に何度も怒鳴られ、叱られた彼らが、30年後にまたこうして集ってくれる。中学校の教師をしていて、こんな嬉しいことはないなー。

アデイオス