マドリッド通信ー66


 マドリッド補習授業校
 校長   加瀬  忠

  オーラ ケ・タール?
 春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて
                  
紫だちたる雲のほそくたなびきたる。      − 枕草子 −

 マドリッド通信読者の皆さん、お元気ですか。我が家から見えるナバセラーダの山々の稜線も、一面の雪景色から春霞の美しい季節を迎えました。今年は、1月の中・下旬から暖かな日が続きましたので、ここ2〜3日で、アルメンドロ(アーモンド)の蕾が大きくふくらみました。日本の桜に似たアルメンドロの花が一斉に咲く日も、もうすぐです。

 「ユーロ流通」その後
 
私が通勤で使っている、ラス・ロサス駅の切符の「自動販売機」が、先週やっとユーロで使えるようになりました。
 2002年1月1日から「ペセタ」に替わって、EU加盟国の共通通貨「ユーロ」が流通して1か月半、この間ラス・ロサス駅で乗り降りする旅客は、切符なしで電車に乗っていたのです。日本ではちょっと考えにくいことなので、私の場合を少しお話させていただきます。

私が通勤で使っているラス・ロサス駅。
駅員もいないし、改札口
もない。
向こう側の家から、駅への出入りも自由。

 私は通常、学校への通勤は電車を使っています。ラス・ロサス駅からアトーチャ駅経由でアランフェス駅まで電車に乗ります。切符は「ボノ・トレン」と言う10回乗車できる回数券を購入して使っているのですが、ラス・ロサス駅には駅員がいませんから、自動販売機で切符を購入するしか方法はないわけです。その切符の自動販売機が、ペセタからユ―ロに替わった1月1日から、「フエラ・デ・セルビシオ(使えません)」と張り紙をしたまま使えなくなってしまったのですね。切符は買えなくなってしまいましたけれども、電車には乗らなければなりません。それで、どうしていたのかと言いますと、先ず、切符なしで電車に乗り、車掌さんが来れば「ラス・ロサスから乗りました」と言って、運賃を払います。車掌さんが来ない場合は、下車する駅で、同じように清算します。車掌さんも、下車する駅の駅員さんも、私の「ラス・ロサスから乗りました」との申告に、一度も「何かの証明を」と言うようなことを言わないのですねー。「加瀬 忠」は、よほど信用があるのか、単に係員が「オーラ・アミーゴ」の世界なのか、全くわかりません。
 私は考えてしまうんですがね。EUの統合は、2002年1月1日の「共通通貨ユーロの流通」をもって完結するのですから、銀行はもちろん、各種の自動販売機、ATM、電話等はユーロに対応すべくハードもソフトも1月1日までには混乱のないように、関係者が徹夜で受け入れ態勢を整えるのではないんでしょうか。
 ところが、受け入れ態勢・準備が整わないままXデーを迎えてしまうんですから、やはり文化の違いを感じますよ。
 EUの統合と言う、壮大な歴史の流れの中でも自分流を変えずに通し、実態が先行したまま条件整備が追いつかなくとも少しも騒がず、泰然自若と構え、悠久ひさしい歴史の流れのままに生活しているスペインの人たちからは、何だか学ぶところが多いですよ。
 ああそう、それで今でもメルカド(市場)へ買物に行きますでしょう、そうしますと魚屋さんではペセタでお釣りがきたり、八百屋さんではユーロだったりと、まだ、まちまちなんですよ。2月28日で「ペセタ」はつかえなくなり、3月1日からは「ユーロ」だけになるのですが、本当に末端まで浸透するのでしょうか。お手並み拝見です。
 ラス・ロサスの駅では、電話もATMも、まだ撤去されたままです。

 「ユーロの流通」周辺国では
 
EU加盟15カ国のうち、12カ国で共通通貨「ユーロ」を導入し、これらの国々ではEUの統合が完結しました。
 戦争以外の方法で、自国の主権の一部を委譲すると言う、21世紀の新しい国創りの形をEUは見事にやってのけましたが、残された3か国、イギリス、スウェーデン、デンマークの今後はどうなるのか、気になるところです。特にイギリスは経済規模でドイツ、フランス、イタリアと並ぶ大国ですし、ニューヨークと並ぶ国際金融センター「シティー」を擁していますから、イギリスの「ユーロ」参加は、今後のEUの深化統合・拡大に大きく関わっていると考えるのですね。
 そこで私は、その方向性を探るため、イギリス領ジブラルタルは実態としてどうなっているのか、ポンドとペセタ、ユーロは、イギリス本国との関わりにおいて一体どうなっているのか等を実際に調べてみました。

 イギリス領ジブラルタルへ
 
「ジブラルタルを制する者は地中海を制する」
 埼玉県の妻沼東・西中学校で歴史を教えていた頃、授業で何度取りあげただろうか。
 イギリス領ジブラルタル、そうです、イベリア半島の最南端、アフリカのモロッコまで
14Kと言う立地条件から、1、713年以来、軍事戦略上の重要拠点としてイギリスが直轄統治しているのです。
 マドリッドのアトーチャ駅を8時15分発の「タルゴ」に乗って、コルドバ、ロンダ経由で終点のアルへシラス駅へ14時05分着。アルへシラス駅前のバス・ターミナルからラ・リネア行きのバスで約50分、これも終点で下車すると、スペイン、イギリス国境まではすぐ目の前(写真)。スペイン国内にあるジブラルタルとはいえ、イギリス領ですから、パス・ポートがないと国境は通過出来ませんので、念の為。

              

                      
手前がスペイン。向こう側がイギリス領ジブラルタル。
               国境は歩いて渡る。国境が飛行機発着用の滑走路である
               ところが、また珍しい。

 さて、イギリス領ジブラルタルの街でマーケットを見つけ、さっそく買物をしてみました。目についたのは、ヘネシーの小瓶、定価は4ポンド50ペンス。何も聞かずに黙ってスッと20ユーロを出してみましたら、「サンキュウ」とお釣りもちゃんと「ユーロ」でくれました。隣りの店ではお気に入りのTシャツがあったので、11ポンド25ペンスで買いましたが、もちろん「ユーロ」でOK。
 街中で、ジブラルタルの街を一周するイギリス名物の二階建てのバスが目にとまったので、これにも乗ってみました。バス賃は60ペンス。支払いは「ユーロ」。
 この実態を見て、私はイギリスの「ユーロ」参加は、時間の問題ではないかと思いますね。
 もちろん、イギリスでは国民投票等、一定の法手続きが必要ですから、参加はその後と言うことになりますが、近い将来イギリスも「ユーロ」に参加すると、私はみています。
 さて、ここまで来たら、ジブラルタル海峡を渡って、スペイン領セウタからモロッコへちょっと顔を出さないといけませんね。
 翌日、フェリーでアルへシラスからセウタへ。高速フェリーですから、ジブラルタル海峡約14Kを、50分で走ります。とにかく早くて快適です。フェリーの中には免税店などもあり、高級ホテルのようです。そうそう、チケットはオープンで切ってもらうと、帰りは何時のフェリーでも乗れますから、とても便利です。セウタからは、タクシーでモロッコ国境へ行き、モロッコへ入りました。

     
   ユーロとポンドの2通貨が流通して いる
イギリス領ジブラルタル。
  アフタヌーン・ティーを楽しむジブラルタ
ル市民。
 こちらは、モロッコ国内のスペイン植民地セウタ。
街角では、大砲がジブラル
タルを睨んでいる。

 ここで驚いたのですが、スペインからモロッコへの入国はいたって簡単。パスポートも見せるだけでしたが、帰りのモロッコからスペインへは、大変な混雑で、時間も相当かかりました。国境を移動する時間とエネルギーは大変なものです。

               

                        
スペイン、モロッコ国境。向こう側がスペイン、手前が
                モロッコ。
自動車の列の右側は、歩いてスペインへ入国
                する検査場。

 21世紀は、ボーダーレスの時代です。国家も、EU諸国が模索したような、国境と言う物理的なバリヤーがより低い、連合国家を志向する時代になっているのかも知れませんね。

アディオス