マドリッド通信−100 −出前授業実践例− フェリペU世大学・翻訳学部 PR OFESOR 加 瀬 忠 埼玉県熊谷市立三尻中学校の皆さんが、総合的な学習の時間に取り組んでいる、情報通信 ネットワークを駆使した「国際理解教育」「情報教育」及び「進路指導」等についての出前授業実践例を掲載します。 ねらい 「国際理解教育」「情報教育」の視点から 1 異なる文化や習慣をもった人々と、偏見を持たずに交流し、共存できる資質・能力を養う。 2 コンピュータや情報通信ネットワーク等を、情報手段として日常的に活用できる能力を養う。 教師が常に強く意識し、イメージする生徒像 豊かな個性と強烈な独創性、課題を自分のものとして、それをクリエートすることが出来るフレキシブルな発想と行動力を併せ持った生徒を育成する。 長期的に展望する生徒像 1グローバルな世界の中で、組織に守られなくても自力で生きてゆける強い人間を育てる。 2英語の情報を収集し、英語で考え、英語のソフトウエアを駆使できる人材(児童・生徒)を育てる。 実践例 事前に準備するもの デジタル・カメラで撮ったEU 及びスペインの歴史・文化・生活場面等の画像を、ピクセル2400で加工し、ワードで文章化したものをCD−Rにまとめる。 体育館の後方からも投影画像が見えるように、大きめのスクリーンを準備し、PC よりスクリーンへ直接投影する(写真・後方左)。 加瀬 ただ今ご紹介いただきました加瀬です。本日は、熊谷市立三尻中学校前期授業の終業式にあたり、講演の機会をいただきまして有難うございます。校長先生からは、「私の人生」と言うテーマで講演をお願いしたいとの電話をいただいたのですが、全校生徒の皆さんに直接お話が出来るせっかくの機会ですので、進路指導にも視点をあてて、しかも「総合的な学習の時間」の授業のような形で進めたいと思います。 私は現在、スペインのアランフェスにある「国立フェリペU世大学・翻訳学部」で教鞭をとっています。中学校の社会科の教師が、なぜスペインの日本人学校や国立大学で働くようになったのか・・と言うことについて先ずお話しましょう。 1 マドリッド日本人学校・補習授業校とは、どのような学校なのかの説明。 2 世界各国の日本人学校へは、どうしたら勤務出来るか。 3 英語、スペイン語等、語学力の必要性。 4 EUの概要についての授業。 加瀬 EUって、皆さん知ってますね。いくつの国が一緒になったのですか? 生徒 ヨーロッパの15の国です。 加瀬 そうそう、ヨーロッパの15の国だね。どんな国かな? 生徒 フランスとかドイツとか・・。 加瀬 そうだね。フランス、ドイツ、イギリス、イタリア、スペイン、ベネルックス3国(オランダ・ベルギー・ルクセンブルグ)等の欧州の15の国々だね。そして今年の5月1日からは、さらにポーランド、ハンガリー等の旧東欧圏諸国やラトビア、リトアニア、エストニアの旧ソ連のバルト海の三国、さらにキプロス、マルタの地中海に浮かぶ二カ国の計10カ国が加わり、25の国がEU(ヨーロッパ連合)と言う大きな国になったんだよ。 加瀬 それでは、最初に私の住んでいるスペイン・EU について説明しましょう。 説明資料により EU −1 EU の国旗及び「EU 統合の歴史的必然性」について説明。 EU −2 マドリッド日本人学校前のN−6(国道6号線)を車で走ると、ポルトガル、フランスへ続いている。 EU −3 スペイン・ポルトガル国境を車で越える。出入国検査・税関検査なし。車はそのままフリーで通過。 EU −4 EU 25カ国を説明(写真・上) 加瀬 EU についてもう少し学習しましょう。国家って、一体何だろう。日本で考えてみてください。 加瀬 日本に住んでいる人は? 生徒 日本人です。 加瀬 日本人の話している言葉は? 生徒 日本語です。 加瀬 買い物をする時に使うお金は? 生徒 「円」です。 加瀬 そうだね。君たちのまわりにいる人たちは皆日本人だし、話している言葉は日本語で、買い物をする時は「日本・円」を使うよね。国って、皆そうなのかな? 国家と言うのは通常、領土・人民・主権がその概念の三要素とされているんだ。君たちの住んでいる国では、どこを見渡しても、そこにいるのは大抵日本人だから、国家に対する違和感はないと思うけど、加瀬先生の住んでいるスペインもそうかな? 生徒 ・・・。 EU (欧州連合)国旗(写真・左)と、マドリッド日本人学校前を走る国道N −6号線。 この道をまっすぐ北へ進むと「ポルトガル」へ、東へ進めば「フランス」へと続く。 加瀬 スペインの人たちは、どんな言葉を話すんだろう? 生徒 スペイン語です。 加瀬 それでは、フランスの人たちは? 生徒 フランス語です(多数が答える)。 加瀬 イギリスはどうだろう? 生徒 英語です(ほとんどの生徒が答える)。 加瀬 そうだよね。言葉はそれぞれスペイン語とかフランス語とか英語とかね。それでは、買い物をする時はどうするんだろう。EU の統合前と、統合後で考えてみてください。統合前では、フランスの人がドイツを旅行したり、買い物をする時はどうしたんだろう。フランス人は、どんなお金を使っていたのかな? 生徒 ・・・(ガヤガヤ)。 加瀬 ドイツやスペインではどうだろう? 生徒 ・・・(一年生、二年生の一部から「ドルかな」のささやきが聞こえる)。 加瀬 EU が統合される前は、フランス人は「フラン」を、ドイツ人は「マルク」を、スペイン人は「ペセタ」と言うお金を使って生活していたんだよ。フランス人がドイツを旅行して買い物をする時は、「フラン」を「マルク」に両替しなければならなかったんだ。このときの両替の相場を「為替相場」と言って、経済の強い国の通貨は相対的に強く、経済の弱い国の通貨は相対的に弱い傾向にあったんだ。 −「外国為替」、「為替相場」のシステムについて簡単に解説 − 生徒 ・・・(子どもたちの様子から、理解出来た子と、出来てない子がいたかな)。 加瀬 それでは、EU が統合された今は、どうしているのかな? フランスでは今でも「フラン」を使っているのですか、ドイツは「マルク」ですか、スペインは「ペセタ」ですか? 生徒 ・・・、やや間をおいて、再び「ドルかな・・」の声。 加瀬 やや間を置いて・・・、今「ドル」、と言う声が聞こえたけれども、米ドルは「国際通貨」と言って、国単位での貿易の決済等に使われる通貨だね。 −「国際通貨」について簡単に説明 − 加瀬 ・・EU ではどうなんだろうな? 生徒 一年生の男子から「ユーロです」の答え。 加瀬 そう、その通り。「ユーロ」、うん、いいぞ。 加瀬 私は現在スペインで生活しています。スペイン国内で買い物や旅行をする時の支払いは、もちろん「ユーロ」です。また、フランスやイタリアへ旅行しても、今では、空港で出入国検査や税関検査はありませんし、パリやローマのレストランで食事をしてもその支払いは「ユーロ」なんですよ。 加瀬 ユーロ圏での生活についての話。 それでは、私の住んでいるスペインと言う国の歴史、地理について少しお話します。 −説明資料により− ローマ橋−1 セゴビアのローマ水道橋により、イベリア半島及びローマ帝国の歴史を解説。 ローマ橋−2 古代ギリシャ、ローマの優れた土木技術の説明。 アビラ −2 城壁都市・アビラの資料で、イスラムの文化、キリスト教との対立の歴史、レコンキスタについて解説。 クエンカ−1 宙吊りの家の資料により、クエンカの歴史を解説。 加瀬 さて、私の仕事(海外特派員)で、どうしても君たちに話しておきたかった「ある出来事」があります。日本でもテレビ等で大きく報道されたので、君たちもまだ記憶に新しいと思いますが、そう、今年の3月11日に起こったスペインの列車爆破テロ事件の時のことです。
スペインの歴史と伝統を感じさせる重厚な「アトーチャ駅(写真・上)」と、熱帯植物園のような「アトーチャ駅構内待合室(写真・下)」。3月11日の爆破テロでは、列車、駅構内に13個の爆弾が仕掛けられた。 あの日(3月11日)は木曜日でした。朝食を済ませて、授業の準備をしていましたら、日本のNHK から急な電話が入りました。「スペインの列車爆破テロ事件のニュースを明後日(土曜日)の夕方6時の番組で取り上げたいのだが、加瀬先生にその取材と解説をお願いしたい」、との要請です。授業との兼ね合いで、かなり無理のあることは承知の上で「国家の一大事」ですから、NHK の要請を受け、すぐ準備にとりかかりました。放送時間は、日本時間の午後6時ですから、スペインでは午前11時になります。私の担当する「翻訳学部」の講座は午後1時からなので、時間は問題ありません。 さて、オファーを受けてはみたものの、爆破現場までの移動をどうするか、アトーチャ駅と電車が爆破されてしまったのですから、電車は動いていません。マドリッド市内は戒厳令に準ずる非常事態宣言が発せられ、市内の交通はすべて止められています。タクシーも使えません。「よし・・、自力で爆破現場へたどり着くしかない!」。 アランフェスの我が家を先ず車で出発しました。車で行けるところまで行き、通行を止められたところで車を乗り捨て、歩いて現場にたどり着く、と言う算段です。国道4号線は、予想通り渋滞が激しく、アランフェスの街を出たあたりから思うように動いていません。ピントの街からは、もうほとんどノロノロの状態で、ゲ−タフェの街で車は進まなくなってしまいました。ここからアトーチャ駅の爆破現場迄は、まだ15キロくらいあります。 予定通り、ゲータフェの街で車を乗り捨て、歩き出しましたが、ゲータフェの街外れで厳しい検問があり、ここを通過するまでかなり時間がかかってしまいました。 取材用のカメラ等、一切を背負っての15キロの道のりはかなり遠く感じましたが、日本から取り寄せてあるカロリ−・メイトをかじりながら、やっと爆破現場のアトーチャ駅にたどり着き、ほっとする間もなく取材開始です。このような悲惨な無差別テロを、誰が、何の目的で仕掛けたのか、死者は、重軽傷者は何人か。NHKの放送ですから、正確な数字と情報が求められます。爆破現場の悲惨な様子は、自分の目で見、その様子をありのままに、リアルにレポートし、死者・重軽傷者等の数字は、国防省で発表される公式な数字を使わなければなりません。状況は刻々と変化します。 加瀬 爆破現場で取材するときは何語だろう? 生徒 スペイン語かなー。 加瀬 そう、スペイン語だよね。 では、スペイン国防省で、各国記者に発表されるいろいろな情報は何語かな? 生徒 世界のいいろいろな国の言葉。 加瀬 うーん、英語が主なんだよ。特派員の仕事は、いろいろな国の言葉が必要になるね。 翌3月12日(金・放送前日の夜)、最終的にまとめた放送原稿では、テロの犯人グループはエタ(バスク祖国と自由)か、アルカイダ なのかが特定できませんでした。また死者重軽傷者数も、死者208名、重軽傷者1400名との発表だったのですが、放送直前に死者数が200名、重軽傷者1400名以上と訂正されました。これは、死者のすべてをDNA 鑑定した結果、訂正された数字です。 加瀬 長い人生、いろいろな仕事があるけれども、極限の状態では最後に頼れるのは自分だけだよ。誰も助けてくれないからね。 加瀬 ここまで皆さんにお話して、もう約束の12時を過ぎてしまいました。今日の授業はこれで終わりにします。 最後に、若い君たちに、私から贈る言葉です。 人生夢を持て 夢の実現に向かって努力を継続すれば 夢は必ず実現する!