マドリッド通信ー103


フェリペU世大学・翻訳学部
PROFESOR  加 瀬   忠


 広大な「王子の庭園」の歩き方
 
王宮庭園は、大きくJardin de la Isla(島の庭園)」と「Jardin del Principe(王子の庭園)」の二つに分けられます。島の庭園は王宮のすぐ近くですので、王宮と王宮庭園の歩き方としては、午前中に王宮と島の庭園、午後に広大な「王子の庭園」と「Casa Marinos(船乗りの家)」、「Casa del Labrador(農夫の家)」を回るコースが効率的です。

                       
 
           王子の庭園の出入り口「Puerta del Embarcadero(埠頭の出入り口)」

 
王子の庭園の出入り口は、「Calle de la Reina( レイナ通り) 」沿いに3箇所ありますが「Pza.Santiago Rusinol(ルシニョール広場)」のすぐ近くの「Puerta del Embarcadero(埠頭の入り口)」から入るとわかり易いです。入り口を入ってすぐ、左手に悠久の歴史を刻みながらゆったりと流れるタホ川のゆるやかな流れを見つめつつ、プラタナスの並木道をまっすぐに進みます。ゆっくりと歩いて約10分、突き当りが歴代国王の埠頭です。カルロスW世、イサベルU世等、時の支配者は皆この埠頭から船に乗り、タホ川の景観を楽しまれました。

                       
 
             歴代国王が船に乗ったタホ川岸のEmbacadero(埠頭)

 船乗りの家
 ここからタホ川沿いに道なりに右に曲がり、すぐ突き当たりに見えてくるのが「Casa de Marinos(船乗りの家)」の「Museo de Faluasreales(船の博物館)」とレストランテ「 Castillo de 1806(カスティージョ1806)」です。船乗りの家は博物館ともなっており、宝物庫にはカルロスW世フェルナンドZ世、イサベルU世等が所有していた豪華な船や当時の船舶グッズ、絵画が展示されています。
 
王子の庭園は、総面積が150万平方メートルと広く「一回り徒歩で」と、言うことになりますと、かなり時間と体力を使いますので、広大な王子の庭園の中でただ一軒のバル、レストランテ「カスティージョ・デ・1806」で一休みされるといいでしょう。
 入り口が物々しく、ちょっと入り難い感じがしますが、カマレロさんたちが、コーヒー一杯でも親切に応対してくれますし、バルの壁面には、現カルロス国王やホアキン・ロドリーゴ夫妻がお忍びでカスティージョ・デ・1806を訪れた時の写真が飾ってありますので、ホアキン・ロドリーゴの名曲「アランフェス協奏曲・第二楽章のアダージョ」に思いを馳せながら静かにカフェ・コルタード(エスプレッソ・コーヒー)を飲み、自分だけのノスタルジックな世界を演出されるのも旅の思い出になることでしょう。
 コーヒー一杯が1.1ユーロ(約150円)、ギンギンに冷えた生ビールが一杯1.5ユーロ(約195円)ですから、ラ・マンチャ名物のアセイトゥーナス(オリーブの実)をつまみながら陽気なカマレロさんたちと話しこむのも楽しいと思います。また、バルにはきれいな無料のトイレもあります。
                  
          住所 C/Jardin del Principe , TEL 91-891-3000

                      

 
歴代国王の埠頭から美しいプラタナスの並木道を進むと、前方右側が Casa de Marinos(船乗りの家・博物館)、正面がバル、レストランテ「 Castillo 1806」、遠くに見えるのは、王子の庭園からアランフェスの街を一周しているアランフェス名物のチキ・トレインです。

                     

 
総面積150万平方メートルのJardin del Principe(王子の庭園・写真上左)カルロスW世ので18世紀末に造営された庭園で、市民の憩いの場となっています。西洋ポプラの並木道が美しい。
 王子の庭園の中にあるレストランテ
El  Castillo(写真上右)。長い歴史と伝統を感じさせる。現カルロス国王やホアキン・ロドリーゴがお忍びで訪れたレストランテとしても有名です。


                     

                    

                  Casa de Marinos(船乗りの家)とMuseo de Faluasreales(船の博物館)

 
かつてスペインの王族がRio Tajo(タホ川)での船遊びの拠点となった船乗りの家博物館(前ページ写真中と下・左)には、カルロスW世、イサベルU世などの王家の船が展示されています(前ページ写真下・右)。

                        

                  
船乗りの家・博物館(写真上・左手)付近を走るチキ・トレイン。

 
Los Chinescos(中国風の池)
 船乗りの家からタホ川沿いに少し進み、道なりに左に曲がると、大きなプラタナスの並木道が続きます。道中は日中でも木立の緑陰が心地よく、聞こえるのはタホ川のせせらぎと野鳥の鳴き声だけの静かな世界です。森の中に目をやると、リスや雉、鶉、孔雀等のかわいい小動物や美しい野鳥類を見つけることが出来ます。
 
まっすぐな散歩道を約1キロ歩くと、進行方向右手に「Los Chinescos(中国風の池)」があります。この池は、深い森の中にありますので、自分の距離感覚で約1キロをイメージし、進行方向右手の森の中を注意深く見てください。そのまま歩き続けていますと見逃してしまいます。

           
 
      水面に美しい緑陰と噴水を映し出す「Los Chinescos(中国風の池)」。手前は1791年に
       建てられたイオニア式の大理石のパビリオン。左は18
16年に建てられた中国風の野外音
       楽堂。


 Fuente de Apolo(アポロの泉)
 Los Chinescos(中国風の池)」から、タホ川沿いの道に戻ると、「Fuente de Apolo(アポロの泉)」がありますApollon(アポロン)」は、ギリシャ神話に登場する美しく男性的な神として、また音楽・医術・弓術及び予言者としての優れた能力と、光明の神として太陽と同一視される程の「全知全能の神」として信仰の対象となっています。

                   
                  
「中国風の池」のすぐ近くにあるFuente de Apolo(アポロの
            泉)と
「全知全能の神」アポロンの像。

 農夫の家
 森の中のLos Chinescos(中国風の池)から再びタホ川沿いのCalle(通り)に出て庭園の奥へと進みます。進む方向は、タホ川(写真・下)をいつでも左手に見て進みますので、方向感覚をしっかりと頭に入れておきましょう。中国風の池から更に約700メートル進むと、進行方向右手に農夫の家があります。農夫の家も、森の中を少し入りますが、道がきれいに整備されていますので、案内板を注意して見ていれば見失うことはありません。

         
 
農夫の家(写真・下)は、カルロスW世が1803年に王妃マリア・ルイサと自分自身の為に造らせた狩猟の為の離れの館なのですが、新古典様式で装飾された内部は、その建物の名前・農夫の家とはほど遠い豪華なフランス・ロココ調スタイルで飾られ、随所に見られるベルサイユ宮殿に似せた建物・庭園やネオ・クラシシズム(新古典主義)の影響を強く受けた家具・調度、絢爛豪華なその室内装飾は、あたかもブルボン王朝の贅を尽くした芸術品の数々のようでもあります。
 また、当時の王室や貴族が集い舞踏会が崔された豪華なサロンは、18世紀〜19世紀に至るカルロスW世時代の社交の場でもありました。

                     
                
Casa de Labrador(農夫の家)。内部は、質素な外観からは想像も出来
                ないようなネオクラシック(新古典主義)様式の小宮殿です。

                      
 
「農夫の家」のもう一つの見どころは、18世紀のネオクラシック様式で装飾された内外の彫刻です。イタリアのトスカーナ州の海岸沿いに位置するカッラーラ市で産する白い大理石の胸像を見ていると、その力強さと言い、あまりにもリアルな表情と美しさと言い、ミケランジェロの彫刻を想起せざるを得ません(写真上及び次ページ上)。

                     

 
農夫の家出入り口
 
農夫の家からPuerta de la casa del Labrador(農夫の家出入り口)へは、農夫の家を背にして緑濃いプラタナスの並木道を約300メートル歩きます。ここから帰路は、王宮庭園の中を戻るか、農夫の家出入り口を一旦出て、Calle de la Reina(レイナ通り)を戻るか、コースは二つになります。どちらのコースを戻るにしましても、農夫の家出入り口で右折します。春は新緑と桜、秋はプラタナス、西洋ポプラ、マロニエの黄葉と落ち葉の絨毯の中を歩きながらスペインの王宮とハプスブルグ家の歴史に思いを致すのも、メルヘン・チックな一時かと思います。帰路のこのコースは、どちらを歩くにしても、30分もあれば十分です。

                      
              Casa del Labrador(農夫の家)から農夫の家入り   Puertade la casa del Labrador
              
口へと続くプラタナスと西洋ポプラの並木道。   (農夫の家出入り口)。

                    
 
王子の庭園は、Calle de la Reina(レイナ通り)に沿って、東西約3キロの距離があります(写真・上)。春にはアランフェス・マラソンの5K 、10K コースになる庭園内は、夕方になると、いつも大勢の市民ランナーで賑わっています。

 ハプスブルク家の高貴な人々とバラの花
 フランス・ハプスブルク家の高貴な人々は、バラの花が大層お気に入りだったようです。フェリペU世も、島の庭園にバラの花を栽培し、庭園散策の道すがらバラの花を愛でることを好みました。王子の庭園をPuerta del Embarcaderoから入って、まっすぐ船乗りの家へ向かって進みますと、右手一帯に今でもフェリペU世が愛した一輪咲きの可憐なバラ「ロサ・エカエ」「ロサ・エグランテリア」等、歴代王室の流れを汲むバラの花が栽培されています(写真・下)

                    

 Jardin del Parterre
(花壇の庭園)とJardin de la Isla(島の庭園)
 王宮に隣接してJardin del Parterre( 花壇の庭園)Jardin de la Isla(島の庭園)があります。花壇の庭園から島の庭園へは、タホ川を渡りますが、島の庭園へ通じる橋がありますので、移動に時間はかかりません。
 Jardin del Parterre(花壇の庭園)は、1727年、フェリペX世(1700〜1724、1724〜1746)によってつくられました。フェリペX世は、ブルボン王家の庭園様式に倣ってフランス風の庭園をつくりあげました。

         

         


 
Jardin del Parterre(花壇の庭園)を入ってすぐに Fuente de Hercules y Anteo(ヘラクレスとアンテオの噴水・写真上)があります。さらに進むと、美しい花壇(写真下)が続きます。花壇には、赤・ピンク・青のぺチュニア、ナデシコ、金魚草等の花が咲き、正面から見ると、左右対称に造られた幾何学模様の庭園は、フランスのベルサイユ宮殿を想起させます。

                  

 
Jardin de la Isla(島の庭園)
         − Concierto de Aranjuez(アランフェス協奏曲)−

 ホアキン・ロドリーゴの名曲「Concierto de Aranjuez(アランフェス協奏曲)」、その哀愁を帯びた優雅で上品なメロディーは、アランフェスの宮殿を舞台に、18世紀後半にスペインの巨匠、ゴヤが描いた宮廷の中の風景や人間模様をモチーフに作曲されたと言われています。
 特に私たちにも馴染みの、Segundo  Movimiento(第二楽章)のアダージョは、ロドリーゴ夫妻のラブ・ロマンスとタホ川のせせらぎとが重なった、その哀愁を帯びた旋律ゆえに、ノスタルジック・サウンドとして私たちに語りかけてくれているようです。

                   
              
アランフェス協奏曲第二楽章・アダージョの曲想が浮かんだと言われてい
              る美しい「Jardin de la Isla(島の庭園)」とRio Tajo(タホ川)のせせら
         (写真前ページ)。


                  
 
ルシニョール広場からCalle de las Infantas(インファンタス通り)を200メートル程進んだ歩道上に、ホアキン・ロドリーゴのアランフェス協奏曲第二楽章・アダージオの楽譜が刻まれており、すぐ近くにはロドリーゴの銅像が楽譜を見つめています(写真右)。芸術の薫り高いアランフェスと、ホアキン・ロドリーゴを愛するアランフェスの人々のロドリーゴに対する熱き想いが伝わってくるようです。

島の庭園
 
Jardin de la Isla(島の庭園)は、フェリペU世(1556〜1598)によって、1560年から造成が始まりました。ハプスブルグ家の流れを汲むフェリペU世は、島の庭園をフランスの庭園造りに倣って造り上げたのです。島の庭園は、タホ川にかかる橋を渡ると、正面に整然と植え込まれたプラタナスの森が開け、どこかブロ−ニュの森を髣髴させます。

           


      

                 
 
島の庭園への出入り口を入ってすぐ、タホ川はここで流れが二つに分かれます。本流から分かれた川は、王宮の裏を流れ、島の庭園の木々を潤す灌漑用水として大規模に利用されています。

 ヘラクレスの泉の彫刻


                    

 
ミケランジェロ作 −アポロの像−

                
 
Jardin de la Isla(島の庭園)のもう一つの見どころは、庭園の随所にある彫刻の数々です。島の庭園へ入ってすぐ左手にある彫刻は、「ヘラクレスの泉の彫刻(写真前ページ)」と「アポロの像の彫刻(写真・上)」です。アポロの像の彫刻は、イタリア・ルネサンス期の偉大な彫刻家、絵画家、建築家であり、16世紀初頭の古典主義芸術の完成に大きな影響を与えたミケランジェロ(1475〜1564)の作と伝えられます。イタリア産の白い大理石で彫ったアポロの神の男性的な均整のとれた美しさ、力強さは、ダビデの像にも似て見る者を魅了します。
 ヘラクレスの泉の彫刻(写真・前ページ下)は、1659年にHerrera Barneuvoによってこの場所に造られました。

      


                                                     アランフェスの「イチゴ列車」・土曜朝市へ